ヨーロッパ音楽旅 3 シューベルティアーデ(オーストリア) 2013

目的
続・フランス男を追いかけて(笑)

時期
2013年8月末~9月

 

旅サマリー

無事、再就職したスズキ。翌年、ヨーロッパ音楽旅を再開した。

 

オーストリアの西端、スイスとの国境近くで毎年夏に数週間にわたり「シューベルティアーデ」という名の音楽祭が開催されている。メイン作曲家はもちろんオーストリアの作曲家シューベルト。「シューベルティアーデ」とは、シューベルトが親しい友人たちと家で演奏した私的な音楽会のこと。

 

好きなフランスのピアニストの情報をネット上で集めていたら、シューベルト弾きでもある彼がこの音楽祭で演奏したときの音源を見つけた。それはヨーロッパのラジオ番組のオンデマンド配信だった。初めてこの音楽祭の存在を知った。調べてみると2013年に、このピアニストが仲間達とシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」を演奏する予定であることが分かった。

 

行ってみたい。

 

でも、どうやら、とても田舎にあるコンサートホールらしい。自分で現地まで行けるのだろうか。泊まる場所はどうしよう。不安だったが、ちょうどそのころ、シューベルトや室内楽に惹かれていたので、これは良い機会だ。思い切って行くことにした。

 

最寄の国際空港はスイスのチューリッヒ。そこから特急列車ユーロシティに乗ってオーストリアに入り、さらにローカルバスで1時間。予約したホテルに無事辿り着いたときは安心した。音楽祭のホールがある村は小さな村でホテル数も限られているので予約は難しい。わたしは、音楽祭シャトルバスが停車する周辺の村のホテルを予約した。

 

到着して安心したとき、ようやく気付いた。

何だ!?このとってもステキな風景は!?

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音楽を追いかけていたら、とてつもなくスゴイところに来てしまった!!

 

シューベルティアーデ音楽祭は地域内の2つの場所で開催されている。1つはシュヴァルツェンベルクという村で、もう1つはホーエネムスという町。わたしが鑑賞したのはシュヴァルツェンベルクでの公演。この地域一帯を「ブレゲンツの森」という。雄大な山々と爽やかな明るいグリーンの森、色とりどりの花で飾られた山小屋、メルヘンの世界に迷い込んだような気分だった。

 

ここで鑑賞したコンサートは4つ。

・シューベルトの歌曲

・ドヴォルザークのピアノ四重奏曲、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」

・ベートーヴェンの弦楽四重奏曲

・シューベルトの歌曲、リヒャルト・シュトラウスの歌曲

 

そのころのわたしは少しずつシューベルトに惹かれていたのだが、それは主にピアノ曲とピアノを含む室内楽曲だった。歌曲王シューベルトの歌曲で知っていたのは中学校の教科書にも載っていた「魔王」ぐらい。この音楽祭で歌曲を聴くことになったので曲を予習した。

最初のコンサートはソプラノ歌手によるシューベルト歌曲だった。数百曲もあるシューベルト歌曲の中から比較的有名な曲が演奏されたのは、初心者だったわたしにとっては有り難かった。「ガニュメート」「水の上で歌う」「糸を紡ぐグレートヒェン」に夢中になり、前者2つに関しては楽譜を入手して事前にピアノでも弾いてみた。こうしてわたしはドイツ歌曲の世界を知ってしまった。

 

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音楽祭のチケットは事前にネットで申し込んだのだが、実は1番のお目当てだった「ます」の公演だけ完売で買うことができなかった。もともとはこれのために企画した旅だったのだが「いつかまた来るだろうから予行演習ということにしよう」などと、半ば諦めて現地入りした。少々恥ずかしいけど「チケット求む」(ドイツ語)の紙を用意して、ホール前で立ってみるつもりだったが、その必要はなかった。前日の歌曲コンサートの休憩時間に「ます」のチケットを買うことができた。

 

シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」の演奏者:

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)

ジェラール・コセ(ヴィオラ)

ゴーティエ・カピュソン(チェロ)

アロイス・ポッシュ(コントラバス)

フランク・ブレライ(ピアノ)

 

このメンバーで同曲のCDも出ている。それぞれ生まれた年代は異なる。ブラレイは1968年、カピュソン兄ルノーは1976年、チェロの弟ゴーティエは1981年、ポッシュが1959年でコセは1948年。つまり40年代、50年代、60年代、70年代、80年代、各1人ずつ。世代を超えた仲間が出会い、惹かれ合い、お互いを尊重して、チームを組むのが室内楽の世界。そういう世界がわたしは好き。こうしてバンドマンたちによる最高のアンサンブルが生まれる。

 

特にピアノが良い!(笑) ただ、入手したチケットが、ちょうどピアニストが見えにくい位置で少し残念だった。

 

この日はたまたまチェロのゴーティエ・カピュソンの誕生日だった。プログラム終了後は即興演奏のハッピーバースデー。その場にいることが嬉しかった。

 

 

シューベルティアーデのブレゲンツの森に向かう前にチューリッヒに2泊したのだが、そのときに電車で1時間ほどのスイスの街ルツェルンにも行った。なぜなら、そこでも音楽祭が開催されていたからだ。その夜に演奏されるのがワーグナーの連作楽劇「ニーベルングの指環」(通称「リング」)の「ヴァルキューレ」であることを知ったのは、旅の1ヶ月前だった。一瞬だけ悩んだが、急遽このチケットも購入して、演奏時間4時間弱の作品の初鑑賞に向けて予習を開始した。

 

ルツェルンは一瞬で気に入った。湖のある美しい街だった。

 

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「ヴァルキューレ」は演奏会形式で、バンベルク交響楽団と指揮ジョナサン・ノットによる演奏だった。わたしの席は2列目。前方の席ならではの歌の迫力はもちろんのこと、歌手の表情も非常に印象的だった。

 

フンディング役のミハイル・ペトレンコの眼力で人を殺せそうな鋭い目つき。ジークムント役のクラウス・フロリアン・フォークトの不安げな瞳から力みなぎる瞳に変化するまで。ヴォータン役のアルバート・ドーメンの渋さ。とりわけ気に入ったのは、その後に日本でも聴くことになったフリッカ役のエリザベート・クールマン。小悪魔的でありながら、爽快でもある。グチグチと小言ばかり吐く典型的な面倒な女フリッカも、クールマンが歌うと魅力ある人物に。

 

こちらはクールマンが歌うシューベルト「魔王」(3分37秒がカッコイイ)


Schubert: Erlkönig - Elisabeth Kulman

 

ルツェルンは「ヴァルキューレ」の作者ヴァーグナーが亡命中に滞在していた場所でもある。ヴァーグナーが住んだ家が博物館になっているので、フェリーに乗って、行ってみたのだが、ちょうどスタッフのお昼休憩の時間で閉まっていたので中には入れなかった。想像以上にかわいらしい家だった。こちらの動画はそのときわたしが録画したもの。

 

「さようならヴァーグナーさん、また来るね」


Richard Wagner Museum

 

ところで、シューベルティアーデの地域の名前、「ブレゲンツの森」に聞き覚えがあるクラシック音楽ファンもいるかもしれない。森の入口の町、ブレゲンツはボーデン湖に面しており、ここで毎年夏に湖上オペラ音楽祭が開催されている。ブレゲンツには鉄道駅があるので、鉄道でシューベルティアーデに向かう場合は、ここで降りてバスに乗り換える。せっかくなので町を散策した。既に湖上オペラ音楽祭は終了していたのだが、残骸(?)というか、舞台セットだけ見ることができた。

 

ブレゲンツのボーデン湖はオーストリア、スイス、ドイツと接する大きな湖。近隣エリアの人々が散歩を楽しむ小さな町だった。この町のカフェのオリジナル商品であるチョコレートが感動的においしいのは内緒にしよう。

 

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成果

クラシック音楽に関して言えば、この旅がわたしを歌曲の世界に導いてくれた。

 

歌曲はクラシック音楽の中でも重要なジャンルの1つなのだが、ピアノや管弦楽にばかり注目していると、なかなか聴く機会がない。そこには語学の壁もある。

 

ドイツ語の詩につけられた音楽を「ドイツ歌曲」あるいは「ドイツリート」と言う。詩人はゲーテ、シラー、ミュラー、リュッケルトなど。詩の日本語訳を読んだだけで直感的に感動できるのは、よほど感性の強い人か、ドイツ文学に慣れ親しんだ人ぐらいなのだと思う。恋も悲しみも苦しみも喜びも人類共通の感情ではあっても、詩という形で何かを感じ取ろうとする場合、なかなかスムーズにはいかない。なぜなら言葉は文化とつながっていて、ドイツ語は日本人にとっては異文化なのだから。

 

オペラと違い、歌曲は演奏中に字幕は出ないし、舞台セット・衣装・演技なども無い。暗いコンサートホールで必死にプログラムの対訳を読みながら歌曲を聴く人もよく見かけるが、そのような鑑賞の仕方はオススメしない。

 

そんな世界に興味を持ってしまったので、わたしはドイツ語がもっとわかるようになりたいと切実に思った。フランス語よりドイツ語を優先して学ぼうと思ったほど。

 

憧れのフランスのピアニストを追いかけて音楽祭に行ってみたら、フランスのピアニストとは直接関係のない歌曲の世界に興味を抱くようになった。クラシック音楽も、旅も、こうして、わたしの世界を広げていってくれる。

 

旅行に関して言えば、ヨーロッパでの鉄道旅がわたしにとっては挑戦だった。学生のときはヨーロッパを長距離バスで旅したので、バスの方が慣れていた。鉄道に苦手意識があったのだが、何も問題なく利用できた。これからは鉄道での移動も含めて旅を計画できる。旅の可能性が広がるだろう。

 

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