ヨーロッパ音楽旅 4 シューベルティアーデ(再訪) 2015

目的
ドイツ男を追いかけて(?)

 

あれれ?!
スズキさん!フランス男はどうしたの?!(笑)

 

時期
2015年8月

 

旅サマリー

ルーマニア生まれのドイツのピアニスト、ヘルベルト・シュフについては、こちらの記事をご参照いただきたい。

 

www.music-szk.com

 

あっという間に夢中になったピアニストなのだが日本に来る予定はなさそう。しかし、2015年のシューベルティアーデ音楽祭に名前がある。ソロリサイタルでオール・シューベルト。これは行くしかない。1度行った音楽祭だから大丈夫。大好きな場所を再訪しよう。

 

前回と同じ旅にはしたくなかった。違うルートでブレゲンツの森に入ることにした。

 

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ちょっと失敗だったのは往路。仕事を終えて夜に帰宅し、荷物を持って羽田空港へ。機内での夕食は薄っぺらのサンドイッチのみ。一日の疲れもあり、空腹で眠れないまま12時間のフライトに耐え、フランクフルトに早朝到着。必死に目を見開いて3時間を過ごし、ザルツブルク行きの飛行機に乗り込んだ。

 

ザルツブルクは1泊だけなので、到着後さっそく街に繰り出す。昼間は意外と平気だった。それから一旦ホテルで休憩し、ヨーロッパの夏の音楽祭の代表格、ザルツブルク音楽祭へ。小ホールでの近現代音楽だったので、比較的カジュアルな雰囲気かもしれないと思ったのだが、念のためきちんとワンピースと靴を用意した。それで正解だった。テラスで寛ぐ人々の光景は美しすぎて、写真を撮るのを遠慮したほど。

 

お気に入りのチェロ奏者ジャン=ギアン・ケラスが中心の室内楽だったのだが、わたしはもう疲労で限界。気絶しそうだった。とほほ。

 

翌日、ザルツブルクから4時間電車に乗ってブレゲンツへ。退屈するかもしれないと思ったのだが、そんなことはなかった。チロルの山々を眺めながら過ごした。前回の旅で二等車両の混み具合を経験していたので、今回から一等車両を利用。日本の新幹線より安い。快適な席で絶景を堪能した。

 

みなさん、スズキは2年ぶりにブレゲンツの森に戻ってきた(感涙)

 

2度目のシューベルティアーデで鑑賞したコンサートは次の通り

  • ベートーヴェンの四重奏曲、シューベルトの八重奏曲
  • ラフマニノフのチェロソナタ、ベートーヴェンのピアノ曲
  • シューベルト歌曲
  • シューベルトのピアノ曲
  • ベートーヴェンのチェロソナタ

 

 

・ベートーヴェンの四重奏曲、シューベルトの八重奏曲

なんという爽やかな青い空!!

11時スタートのコンサートはこんな雰囲気だったのか。知らなかった。ああ、わたしの好きな場所。エキサイティングな空気に心が躍る。

 

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この空気をますます盛り上げる爽快な演奏だったので、わたしはますます上機嫌に。いや、わたしだけではない。ホール全体が喜びに満ち溢れていた。ヨーロッパ各地からヴァカンスに来たクラシック音楽ファンの皆さん。言うまでもないが、ドイツ語圏から来た人が多いし、高齢者も多い。温和な人々ばかりだけど、すごい熱気も感じる。

 

開演前に外で、ある方に「こんにちは」と声をかけてみた。日本の方かもしれないと思ったのだが、やはりそうだった。「娘が演奏する」と仰るので驚いた。その方は、ミネッティ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者アンナ・クノップさんのお母様でピアニストのナオコ・クノップさんだった。

 

スズキの音楽人生の中でも特別なスゴイことがあった。

 

終演後、ご好意に甘えて何故かわたしは演奏者の皆さんが身内の皆さんと囲むランチの席に加わった。ミネッティ四重奏団の他に、シューベルト八重奏曲で共演したクラリネットのポール・メイエ(日本でも何度も聴いた)、ファゴットのジルベール・オダン(メイエも一緒の「レ・ヴァン・フランス」でお馴染み)、ホルンのエルヴェ・ジュラン、コントラバスのアロイシュ・ポッシュ(ブラレイの「ます」にも参加)も同じテーブルの奥の方に。

 

多忙の管楽器奏者3人はランチの途中で早々と去ったのだが、どこの誰だか分からないようなわたしにもご丁寧に挨拶していただき(いや自分自身でも何故自分がそこにいるのか把握できていない)恐縮しつつも嬉しい・・・

 

アンナさんを始め、四重奏団の皆さんもそれぞれ明るく気さくな人々。ご家族やパートナーの皆さんが食事を楽しむ場面だから、食事中の会話はもちろんドイツ語。もっとドイツ語をがんばろうと思った。

 

この四重奏団の演奏を日本でも聴きたい。夏のオーストリアの山の朝に相応しい、若々しくエネルギッシュでありながら洗練された心地良い演奏。(魅力的な海外アーティストの公演を多く企画している武蔵野文化事業団で呼んでくれないかな・・・密かに期待。)

 


BUNT 3.0 - W.A. Mozart: Adagio and Fugue in C minor, K. 546

 

ナオコさんもまたとてもステキな方だった。とても感じの良いにこやかな笑顔で接していただき、これまたとても嬉しい・・・ もともとわたしが予定していた買い物にも車で連れて行ってくださり、車中でもお話を楽しんだ。

 

 

・ラフマニノフのチェロソナタ、ベートーヴェンのピアノ独奏

同日2つ目のコンサートは、数日前に変更があった。羽田空港に向かう直前に届いたメールで、鑑賞予定のコンサート2つの演奏者がキャンセルしたことを知ったのだが、このコンサートは、そのうちの1つ。

 

ピアノのソロリサイタルのはずだったが、ピアニスト急病のため、代役を引き受けたピアニストとチェリストが別のプログラムを演奏するということになった。マルティン・ヘルムヒェンはベートーヴェンの大曲ディアベリ変奏曲を実に自然に颯爽と演奏し、マリー=エリザベート・ヘッカーのラフマニノフのチェロソナタは大胆で濃い演奏を披露した。夫婦でもある2人の演奏はホールのお客さんも大いに楽しんだし、わたしも楽しんだのだけど、急に聴くことになったので予習ができず、演奏の詳細はあまり覚えていない。

 

・シューベルト歌曲

この歌曲リサイタルも直前に変更されたコンサートのうちの1つ。シューベルトが1815年(ちょうど200年前)に作曲した歌曲のツィクルスなので、滅多に歌われない曲も多い。

 

歌手2人がキャンセルしたのでピアニストのジュリアス・ドレイクだけが残った。プログラム変更は避けられないと思ったのだが、代役を引き受けたビルギット・シュタインベルガー(ソプラノ)とトーマス・バウアー(バリトン)が、当初のプログラムをそのまま引き継いでくれたので、奇跡的にプログラムは変更なしとなった。予習で知った曲が既に大好きだったからわたしはとても楽しみにしていた。もし別のプログラムを演奏することになっていたら、わたしは大泣きしてしまっただろう。代役の2人はわたしのヒーローとなった。

 

登場した歌手2人は何故かソワソワ楽しそうに見えた。早く歌いたくて仕方ないご様子。ははん。さては、珍しいプログラムの準備でシューベルトの知られざる曲と出会って嬉しくなってしまったのだな。(スズキの予想)

 

妙に張り切り過ぎのソプラノとバリトン。常に冷静なピアノ。ああ、楽しい。

各曲について紹介したいところだが、長くなってしまうので後日紹介したい。1曲だけ。

 

Das gestörte Glück (Körner), D 309

たぶん主人公は小さい男の子。「ボクはキスが得意なんだよ!やったことないけどさ!」と歌う。失敗続きの男の子を40代のバリトン歌手が地団駄を踏みながら悔しそうに歌うのがカワイイし、何故か似合う(笑) すると、突然ソプラノのシュタインベルガーがバウアーに近付いて「チュ♪」

 

客席のおじいさんおばあさん、大盛り上がり。いやん。いいですね。まるでお姉さんが「んもう!坊や、かわいいんだから!」みたいな感じ。

 

バウアーも何故かお返しの「チュ♪」 客席のおじいさんおばあさん、ますます大盛り上がり。おばさんスズキも楽しすぎて大笑いしてしまった。ちょっと待ってください。これは計画通りの演出かしら?それとも、衝動的につい?(落ち着けスズキ)

 

ふふふ、日本では文化が違うのでこのような場面はありえないね。

 

・シューベルトのピアノ曲

この旅の大本命、ピアニストのヘルベルト・シュフの登場。前から2列目のド真ん中(興奮注意)。惚れ込んだピアニストの生演奏を初めて聴く至福の時。

 

シューベルト

 ピアノソナタ第4番 D537

 さすらい人幻想曲 D760

 ピアノソナタ第20番 (D959)

 

旧ブログで書いた感想がけっこうゾクゾクする内容だったりする。知らないうちに、わたしは演奏者に追い詰められてしまっている。シューベルトのかわいらしい旋律は、腕のいいピアニストが音を研ぎ澄ませて弾けば残酷な響きにも聴こえる。たとえば、ヘルベルト・シュフが弾くと、4番ソナタ第2楽章の単純でかわいらしいテーマは、表向きの明るさは最後まで変わらないけど、徐々に深刻に恐ろしげになっていく・・・そんなふうに、わたしは感じた。

 

「さすらい人」でもソナタ20番でも同様に彼はわたしを追い詰める。意図的にテンポに差をつけ、狙い通りに聴き手を撃ち落す。念のため言っておくが、わたしは、わざとらしいものには引っかからない人間だ。ヘルベルト・シュフの演奏はわざとらしいものではない。それでも、巧みにわたしの隙をついて入り込んでくる。段階的に強めていく。

20番のフィナーレは遅く、「あれ?」と思わせるほど途切れさせる。圧倒的な絶望感。ああ、楽譜も持ってくれば良かった。そうすれば細かく印象を書き込めたのに。仕方ないので、ホテルに戻ってからプログラムに記憶の限りメモをとった。

 

アンコールのリスト「ラ・カンパネラ」については何と言って良いのか。どっぷりシューベルトに浸ったのに、せっかく聴いたシューベルトを強制的にお客さんの記憶から消してしまおうと企んでいるのかしらと思ってしまった。いじわる。わたしの大切な記憶なのに。ひどい。

 

「ラ・カンパネラ」など有名すぎてもう聴き飽きた曲だった。でも、こんな演奏は聴いたことない。じわり、嫌な汗をかく。蜂が羽をバタつかせているような滑らかだが強いトリル。あなたは天使の顔した悪魔か。(いや、ちょっと言い過ぎた。ゴメン。)圧倒されながらも、シューベルトの演奏の記憶を留めるために必死に抵抗するスズキ。

 

エンタメ的なパフォーマンスと一緒にされては困るが、そう思ってしまう人もいるのかもしれない。派手な演奏というわけではない。そういう演奏を嫌うわたしが夢中になってしまうピアニストなのだ。

 

シュフはおそらくフランツ・リストに特別な思い入れがあり、自分を重ねているのだと思う。どちらも東欧に生まれたドイツ系だから。

 

奇跡的にサインをもらうことができた。この音楽祭でもサイン会があるということは、初日の終演後に初めて知った。ただ、わたしはシャトルバスでホテルに戻らないといけないので、乗り遅れないようにしなければ。時間はかけられない。

 

「日本にも来てください!」とピアニストに声をかけたのだが、「日本にはX年前に行ったよ」と素っ気ない返し方だったので、日本にはそれほど興味なさそうだと思った。

 

それでも十分満足だ。初めて生演奏を聴けて、サインまでもらって、一言でも会話をしたのだから。よし、目的達成。

 

 

・ベートーヴェンのチェロソナタ

チェロはミクロス・ペレーニ、ピアノはサー・アンドラーシュ・シフ。

 

2012年にウィーンでアンドラーシュ・シフの演奏を聴いたときは、真面目でストイックなピアノ演奏だと思ったのだが、この日のデュオはコメディーのようにおもしろかった。遊ぶように面白い音をわざと選んで鳴らしていたように感じた。(旧ブログを読み返しながら「本当か?」と思ってしまったのだが。)同じハンガリー出身のペレーニとは仲良しのように見える。譜めくり者のミスにより一部曲を演奏し直した場面もあり、若干ホール内がざわついたが、何事もなかったかのようにコンサートは進んだ。1曲終えるごとに熱を増していく2人だった。

 

翌日、ホテルをチェックアウトしてブレゲンツ駅に向かうバスに乗った。ちょうどバスがシュヴァルツェンベルク村を通ったとき、バスの中から、タクシーに乗り込むチェロ奏者ペレーニの姿が見えた。山に囲まれた村の山小屋ホテルからチェロを抱えて出てくるところだった。絵に描きたくなるステキな場面だった。

 

コンサート以外でもスズキはブレゲンツの森を楽しんだ。ホテル周辺を歩くだけで大感動・大満喫していた前回とは違い、今回はロープウェイに乗って山の上の方に行ったり、好物のチーズを買いに行ったり。この地域がますます好きになった。

 

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村のホテルは2食付き(「ハーフボード」という)で、前回と同様、この旅でも毎晩1人でコースディナーを楽しんだ。朝食ビュッフェには地産チーズが何種類も並んでいてチーズ好きにはたまらない。

 

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前回に続き、またブレゲンツの街に立ち寄った。この年、ブレゲンツの湖上オペラ音楽祭では「トゥーランドット」を上演していたらしい。また「残骸」のみ見物。

 

最後に立ち寄ったミュンヘンは1泊のみ。リヒャルト・シュトラウスの母方の実家でもあるビール醸造所のビール「ハッカー・プショール」のレストランに行って食べたり飲んだり、レンバッハハウス美術館でフランツ・マルクの絵画「青い馬」とツーショットを撮ったりして楽しんだ。

 

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成果

日本でほとんど会えない憧れのピアニストの演奏を聴き行くという目的を達成したのは成果なのだが、次に繋がりそうな真新しい「何か」は特になかったと思う。成果はこれまでの旅の延長線に留まる。たとえば、もっと歌曲を知りたい、もっとドイツ語を理解したい、もっと旅をしたいなどという想いが強くなったとか。

 

それでも、とても良い旅だった。これまでの旅の中でもっとも多くお喋りを楽しんだ。コンサートの席が近かった人々、同じホテルからコンサートに行った人々、ホテルの食堂で隣のテーブルだったフランスのマダム、ホテルのオーナー、チーズ屋に向かって歩いていたときに車に乗せてくれた人、チーズ屋の人などなど。

 

旅が素晴らしすぎて日常が嫌いになってしまったのも仕方ない。

 

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