チャイコフスキー作曲 オペラ「イオランタ」

ロシア語学習歴3ヶ月のスズキが「イオランタ」の中からテキトーにロシア語を拾い、テキトーにコメントしながら「イオランタ」を解説する。 

 

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あらすじ

時は15世紀、プロヴァンス(南フランス)のルネ王の娘イオランタは盲目なのだが、イオランタは「目で見る」ということを知らずに暮らしている。事実を知ってイオランタが悲しまないように、みんな気を付けている。城の中では「見る」「光」「色」などについて誰も話してはならない。

 

名医エブン=ハキアは、イオランタ本人が盲目であることを自覚し、見えるようになりたいと強く望まない限り、治療しても効果はないと言う。

 

そんなとき、イオランタの許婚ロベルトが友人ヴォデモンと城に迷い込んできた。友人ヴォデモンはイオランタに一目惚れ。ヴォデモンはイオランタが盲目であることに気付き、ショックを受けるが、見えることの素晴らしさを精一杯伝える。知らない世界の存在を知ってイオランタは嬉しかった。

 

イオランタが盲目であるという自身の悲劇を知ってしまったことにルネ王はショックを受けるが、これはチャンスでもある。王は「治療が成功しなかったら、ヴォデモンを死刑にする」とイオランタに告げる。知らない世界を教えてくれた大事な友達ヴォデモンを救うためにも、イオランタは見えるようになりたいと強く想い、治療を受ける。そして、目が見えるようになり、一同大喜びで神に感謝する。

 

ストーリーはデンマーク人の作家ヘンリク・ヘルツが19世紀に書いた戯曲「ルネ王の娘」による。ルネ王、娘、ヴォデモンは15世紀の南フランスに生きた実在の人物だが、実際にはルネ王の娘(ヨランド)は盲目ではなかったとのこと。

 

オペラのロシア語リブレット(台本)を書いたのは作曲家チャイコフスキーの弟、モデスト・チャイコフスキー。

 

内容も音楽もワーグナーをイメージしてしまう部分がある。

 

いや、絶対意識していたはず。でも、チャイコフスキーの音楽とヴァーグナーの音楽はあまり結びつかないので、何だか戸惑ってしまう。

 

わたしのイメージでは、チャイコフスキーは王道のロマンチックな音楽で、ヴァーグナーは人間の屈折した部分を前面に出した音楽。どちらも美しいのだが、美しさの種類が正反対。「イオランタ」はチャイコフスキーの作品なのだが、ぼんやり聴いていると、ヴァーグナーの音楽を聴いているような錯覚を覚える。

 

 

予習に使ったCD

チャイコフスキー 歌劇「イオランタ」

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図書館で借りたこのCDは気に入ったのだが、リブレットがキリル文字ではなくラテン文字表記(つまりбюяшжなどではなくABC)だった。ああ、なんという悲劇だろう。せっかくキリル文字を読めるように勉強したのに。

 

いや、そんなもんだろう。わたしだって、こうしてロシア語を勉強する機会がなかったら、ラテン文字表記を有り難いと思ったはず。

 

でも、せっかく勉強したのだから、キリル文字で予習したい。

仕方ない。わざわざネット上でキリル文字のリブレットを探して印刷した。

 

ピックアップ

では、ここから、ゆるーくロシア語を拾ったり、内容に突っ込んだりしていく。先に申し上げるが、スズキはロシア語学習歴3ヶ月なので理解不足や勘違いも多いので、その点は多めに見ていただきたい。

 

「イオランタ」における頻出単語の1つはこちら。

 

Где 発音:グジェ、グヂィェ 意味:どこ

 

ヒロインのイオランタは盲目なので「どこ?」を連発する。ロシア語のеは「エ」ではなく「イェ」と発音するのだが、その部分がまたわたしのツボ。

 

このように使う。

Где ты(グジェ ティ)あなたはどこにいるの?

Где мы(グジェ ムィ)おれたち、どこにいるんだ?

 

同様に、他にも超初歩的な単語が鑑賞時の頼りになる。

 

Что 発音:シュト 意味:何

Кто 発音:クト 意味:誰

目が見えるようになったイオランタは「これは何?」「これは誰?」を連発する。「シュトーエタ?」「クトーエタ?」 これでロシア語学習者は完璧に「何」と「誰」を覚えられる。

да  発音:ダー 意味:はい

нет 発音:ニェット 意味:いいえ

как 発音:カク 意味:○○のような

отчего 発音:アチヴォ 意味:なぜ

 

отец 発音:アティェツ 意味:お父さん

一般的にはロシア語でも他のヨーロッパ諸国のように「パパ」なのかな?イオランタは父ルネ王をアティェツと呼ぶ。ロシア語ではアクセント以外の母音は「弱く」発音する。「弱く」発音するというのは、たとえばオをアのように発音したり、エをイのようにすること。この単語の最初の文字оは「ア」と発音する。アクセントはティェの部分。

 

ちなみに「王様」はкороль(カロル)なのだが、これは見覚えがある。ポーランドの作曲家のシマノフスキのファーストネームだ。調べてみると英語のチャールズやカールに相当するスラヴ系の名前とのこと。でも「王様」と同じで良いのだろうか・・・?

 

ルネ王は娘イオランタのことを「わたしの娘」дочь моя(ドッチ・マヤ)と呼んだり、「わたしの天使」と呼んだりしている。

 

друг 発音:ドゥルック 意味:友(男)

イオランタの許婚ロベルトと友人ヴォデモンはもちろん「ドゥルック」。

 

подруга 発音:パドゥルーガ 意味:友(女)

イオランタと一緒に城に住むブリギッタやラウラは「パドゥルーガ」。

 

 

オペラの予習というのは、できるだけ発音を真似しながら歌うことに始まる。そのためには、その言語の基礎知識が必要となる。

 

ルネ王の嘆きの歌とそれに続く医師エブン=ハキアのアリアは、わたしのお気に入りの歌。なかなか上手くは歌えないが、がんばって歌う。

 

これまでの方針が間違っていたのかもしれないと苦悩するルネ王(バス)が歌う。バスはバリトンより低い音域。「おお、神よ!わたしの神よ!」と超低音で歌うと、インパクト超大。「ボージェ、ボージェ・モイ・・・」かなり低いぞ。。。苦しそう。心を痛めている感じがひしひしと伝わる。(あまりにも低くて不気味でもある。)

 

それに応じるように、ムーア人の医師エブン=ハキアが哲学者のような主張を広げる。人間には心と肉体の2つの世界があり、どちらか1つだけで何かを成し遂げるなど理に適っていないと。歌は「2つの世界」から始まる。「ドゥヴァー ミラ・・・」

 

エブン=ハキアの独唱は、思いっきり盛り上がりそうな雰囲気を感じさせながらも、やや控え目に歌い上げる。когда(カグダ、いつ、~のとき when)が1番ピークで、тогда(タグダ、そのとき then)で少し落ち着く。このアリアはぜひとも気持ち良く歌いたい。

 

ちなみに「医者」はロシア語でврач(ヴラッチ)と言う。イオランタやルネ王はエブン=ハキアのことを「ヴラッチ」と呼んでいる。エブン=ハキアは登場人物の中では唯一怪しげ(というより「妖しげ」?)な人物なのだが、独自の思想を持っているという点で、ちょっとカッコイイ。スズキが惚れ込んでしまうキャラクターでもある。

 

ルネ王とエブン=ハキアが独唱し、舞台を去ると、代わって若い男2人が登場する。イオランタの許婚ロベルトとロベルトの友人ヴォデモンだ。一気に舞台の雰囲気が明るくなる。

 

この記事では省略したのだが、オペラの冒頭でも、王女イオランタとお友だちがお花の周りで楽しく歌ったりしている。しかし、盲目の王女イオランタの憂鬱な心を反映してか、どこか陰が付きまとっていた。そして、やはり同様に暗い雰囲気を帯びたルネ王とエブン=ハキアの独唱が続く。ようやく、若い男2人ロベルトとヴォデモンの場面で、開演後初めて明るい青春の世界が繰り広げられる。

 

会ったこともない許婚イオランタ姫より、情熱的な恋人マティルダに夢中なロベルトと、情熱的な女とは正反対の純情な少女を切実に求めるヴォデモンが、対照的なそれぞれの想いをロマンチックに歌い上げる独唱。2人ともとても真剣で火傷しそうなぐらい熱い。(青春かぁ。。おばさんスズキは遠い目で2人を見る。)

 

ふと、ロベルトが友人ヴォデモンをファーストネームで呼んだ。

 

「ゴットフリート!」

 

え?!?!

 

ちょっとまって。

なんでヴォデモンの名前が「ゴットフリート」なの!?!?

 

イタリア語やフランス語風の名前の人物が多いのに、なぜヴォデモンの名前だけドイツ語なの?やはりヴァーグナーを意識しているのか?

 

調べてみると、原作(デンマーク語)ではヴォデモンのファーストネームは「トリスタン」だった。あれれ。ゴットフリートより更にヴァーグナーっぽい?(笑)

 

15世紀に実在した人物ヴォデモンのファーストネームは「フレデリック」だった。

 

けっきょくオペラで採用されたのは原作の「トリスタン」でもなく、実在の「フレデリック」でもなく、そのドイツ語「フリードリッヒ」でもなく、なぜか「ゴットフリート」だった。

 

謎だ。ヴァーグナー的な雰囲気を持たせたかったが「トリスタン」は行き過ぎだと思ったのか?チャイコフスキー弟に確認しないとわからない。

 

その「ゴットフリート」ヴォデモンは、イオランタに「そこにいるのは誰?」と訊かれて、答えます。彼は「ブルゴンスキー・リツァー」(ブルゴーニュの騎士)と自身を説明した。イオランタは彼を「騎士さん」と呼ぶようになる。

 

この単語、リツァー рыцарь はドイツ語の「騎士」Ritter(リッター)とそっくり。そして、ソプラノの声で「リツァー」と呼びかけると、やっぱり思い出すでしょ!?

 

ローエングリンに呼びかけるエルザを!

ほら!ヴァーグナーのオペラだ!

 

さらには、城に迷い込んでしまった「騎士さん(ヴォデモン)」は疲れているはずだと思った心優しいイオランタは、ヴォデモンに酒を勧める。女が杯を手渡し、男がそれを飲む。これはヴァーグナーの「ヴァルキューレ」でのジークムントとジークリンデの場面に似ている。(ただし、女に毒見させる部分は「イオランタ」にはない。)

 

ここで、ロシア語学習者スズキは発見した。

 

イオランタとヴォデモンは初対面なのだが、オペラのリブレット原文では、ヴォデモンが敬称(目上の人に向けた話し方)で話しているのに、イオランタは常に親称(身近な人に向けた話し方)で話している。

 

イオランタは、ほとんど外部と接触することなく暮らしているので、敬称を知らないのかもしれない。ヨーロッパの多くの言語で、敬称は複数の人間に話しかけるときと同じ形であり、それはロシア語でも同様。イオランタはきっと「わたしは1人なのに、なぜ騎士さんは複数の人に向けて話しかけているのかしら?」なんて、思ったのかもしれない。

 

ただし、リブレットの和訳では、イオランタも敬称で喋っているように訳されていた。ここは原文どおりの親称で良いのでは?そのほうが、「ちぐはぐ」な会話の雰囲気が出て良いのでは?

 

ちなみにロシア語の敬称の「あなたは」は Вы (ヴィ)。親称の「あなたは(君は)」は ты (ティ)。フランス語の敬称vous 親称 tu と似ているので違和感はない。

 

ヴォデモンは一生懸命イオランタの美しさを褒めるのだが、目で見るということを知らないイオランタにとっては不可解だった。なんだか不思議な気分に陥ったイオランタはстранно(ストランナ)という言葉で自分の気持ちを表した。この単語は、イタリアのオペラ作曲家ヴェルディの「椿姫」でヴィオレッタが突然受けた愛の告白に戸惑いStrano「ストラーノ」(おかしいわ!)と言うのと似ている。フランス語なら「エトランジェモン」なのだろうか?としたら、このロシア語は断然イタリア語に近い。不思議だ!

 

イオランタが盲目であることに気付いたヴォデモンは「彼女は盲目なんだ!」と叫ぶ。

 

Она слепа! (アナ・スリパー!)

 

とても印象的だから覚えてしまったのに、こんなロシア語を覚えても、滅多に実践で使う場面はなさそうだ。

 

なぜ盲目だと気付いたのか。

 

ヴォデモンは、今日のお別れに「赤いバラ」を欲したのだが、イオランタは「赤い」が分からない。分かったとしても目が見えないので探せない。イオランタは何本も白いバラを折って手渡すのだが、「赤い」が通じないことにヴォデモンは戸惑う。

 

この場面において「赤い」はキーワードなのだが、このロシア語がわたしはなかなか覚えられない。Красная роза(クラスナヤ・ローザ)の「クラスナヤ」の部分が「赤い」という意味。

 

治療が上手くいかなかったらヴォデモンを死刑にするなどという父の暴言に反応して、絶対に治してみせるわと意気込む勇者のようなイオランタ。

 

「お医者さん、どうすればいいの!?」

 

「なんだって受けて立つわ!」と言わんばかりのギラギラ勇気が沸いて来る場面もまた、死んだジークムントの子がお腹にいることを知ったジークリンデが生きる気力を取り戻した、あの場面に似ているとわたしは思った。

 

チャイコフスキーがヴァーグナーのような音楽を作るということが本当に意外で、何と言って良いのやら。

 

 

鑑賞データ

2018年6月12日 サントリーホール

 

チャイコフスキー

 セレナーデ・メランコリック

 オペラ「イオランタ」(演奏会形式)

 

指揮:ミハイル・プレトニョフ

ロシア・ナショナル管弦楽団

 

ヴァイオリン:木嶋真優

 

イオランタ:アナスタシア・モスクヴィナ

ヴォテモン伯爵:ミグラン・アガザニアン

ルネ王:平野和

ロベルト公爵:大西宇宙

エブン=ハキア:ヴィタリ・ユシュマノフ

アルメリック:高橋淳

ベルトラン:ジョン・ハオ

マルタ:山下牧子

ブリギッタ:鷲尾麻衣

ラウラ:田村由貴絵

 

新国立劇場合唱団

 

オペラで歌ったのはロシアから来日した歌手たちと、日本で活躍する歌手たち。(ただし、イオランタ役のモスクヴィナはベラルーシ出身。エブン=ハキア役のユシュマノフはロシア出身で日本在住。)

 

国内でよく名前を見るオペラ歌手たちもロシア語がお出来になるとは。ロシア語初心者のわたしには正確な判断はできないが、それなりに皆さんロシア語が上手いと思った。

 

オペラの序奏は暗い。管楽器のみ。ファゴットがボソボソ何か言っている。

 

最初にこのオペラについて知ったとき、刺激的なオペラを好むわたしとしては、このオペラのストーリーは平和過ぎて退屈に思えた。登場人物が全員「良い人」なんて。

 

それなのに、わたしは後半、涙しながら鑑賞していた。具体的にどの場面だったか、思い出せないが、それなりに感情を揺さぶられた。

 

目が見えないことを知らずに育った王女イオランタは、もう小さな子どもではない。何かがおかしい、みんな何かを隠しているということには気付いている。本当のことを誰にも教えてもらえない、閉鎖的な社会で生きる苦しさ。でも周りは良い人ばかりなので怒りをぶつけることもできない。何不自由ないのに不幸な少女。

 

そんなときに、光のある世界を教えてくれた人がいた。

 

人生捨てたものじゃない。わたしだって、1人で何かを見つけることに限界を感じて、誰かに何かを教えて欲しいと思うことがある。だから、イオランタの喜びを理解できる。

 

それに、現状をきちんと認識して、良くなりたいと願わない限り、何も変わらないと、どこか哲学めいたことを言う医者エブン=ハキアも気になる人物。事実を知ることは痛みを伴うかもしれないが、人生を前に進めるために必要なことでもある。

 

「イオランタ」は、平和過ぎて退屈な話とも思えるが、人生を考えるときに気になることを取り上げている場面もある。ぜんぜん悪い作品ではない。

 

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どうだい。ふふふ。ロシア語の学習3ヶ月でこれだけ楽しめるのだ。そこのアナタもロシア語やってみない?ふふふ。

 

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