我が偏愛の・・・1

そんなタイトルで始まる本がある。(「我が偏愛のピアニスト」青柳いずみこ著)

 

クラシック音楽を聴き始めたころ、わたしはイイ子ぶっていた。特定の誰かを贔屓しないように心掛けた。音楽を仕事にしている人はみんな同じように素晴らしい。

 

ところが、一旦誰かに惚れ込んでしまうと、そんな「イイ子」は一瞬で崩れてしまった。

 

別にいいではないか!偏愛バンザイ!!

 

誰かに夢中になったからこそ開けてくる世界がある。万遍なく公平に見ているだけでは辿り着けない場所がある。

 

わたしが偏愛する演奏家を紹介しよう。

 

わたしの中で「三大ピアニスト」と呼んでいる人たちから始める。その中でも、好きなピアニスト第1号は特に重要だ。

 

シリーズ第1回

 

ピアニスト フランク・ブラレイ(1968- フランス)

2011年の東日本大震災と原発事故のため予定を変更して開催された東京の音楽祭に、自ら望んで急遽参加を決めたピアニストだった。音楽祭を毎年楽しみにしていたわたしにとって、彼は救世主のように見えた。演奏には期待しなかった。とにかく良い人なのだろうと思っていた。

 

当時のプロフィール写真から派手な演奏をイメージしていたのだが、そうではなかった。洗練された演奏だった。それでも、一瞬で演奏に惹かれたのではない。じわりじわり気になり、CDを1つ手に取り、YouTubeを検索し、インターネットを駆使して調べているうちに、夢中になってしまった。

 

それまでのわたしは演奏者の名前などほとんど気にせず、作曲者と曲名だけを見てコンサートを選んでいた。だから、フランク・ブラレイはわたしにとって好きなピアニスト第1号だった。

 

それだけではない。アホと笑われるかもしれないが、人生の先輩として憧れるようになった。自分もあんな人間でありたい。ブラレイさんのような人間は日本には絶対にいない。彼のような人間が育ったフランスという国に、かつてないほど興味を抱いた。

 

演奏家に興味を持ったのも、CDを聴くようになったのも、ついに音楽を求めてヨーロッパまで行くようになったのも、言語を学ぼうと思ったのも、室内楽を熱心に聴くようになったのも、すべてブラレイさんがきっかけだった。わたしのクラシック音楽人生において最重要人物と言える。

 

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ピアニスト エリック・ル・サージュ(1964- フランス)

次に紹介するル・サージュが、先に紹介したフランク・ブラレイと演奏仲間であることは、ただの偶然だった。

 

ついにピアノを買った頃だった。ピアノレッスン再開にあたり、最初の発表会で弾く曲を探していた。たまたま図書館で借りたブラームスのCDが気に入って、その中からピアノ・ソナタの第3楽章を練習してみることにした。練習にあたり、他のピアニストによる演奏も聴いてみたのだが、なかなか好みに合う演奏が見つからなかった。最初に聴いたCDのピアニストが自分にとって最も魅力的な演奏だった。そのCDでピアノを弾いていたのがル・サージュだった。

 


Guillaume Connesson | initial dances · f.k. dance (III) | Eric Le Sage

 

フランク・ブラレイを知ったのとほぼ同時だった。調べてみると、連弾や2台ピアノで2人が一緒に演奏していて驚いた。良き友人でライバルなのだろう。羨ましい。

 

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ピアニスト ヘルベルト・シュフ(1979- ルーマニア ー ドイツ)

しばらくの間、先に紹介した2人がわたしの中で突出した「二大ピアニスト」だった。

 

あるとき、某レーベルのライターの方とお話しする機会があった。その後、彼女はわたしが当時書いていた旧ブログを読んで「スズキさんにオススメのピアニスト」を挙げてくれた。それがヘルベルト・シュフだった。

 

ヨーロッパの音楽祭のプログラムで見たことある名前だった。名前から察するに、ドイツのピアニストなのだろうと思っていたのだが、調べてみると出身地がルーマニアとなっていて驚いた。それから、演奏はもちろんなのだが、演奏以外の部分でも物凄くわたしの好奇心を刺激してくれた。


Herbert Schuch: Invocation

 

先の2人とは違い、ヘルベルト・シュフは来日が少ない。オススメしていただいた翌年、わざわざヨーロッパまで聴きに行ってしまった。それほど急激に夢中になったピアニストだった。

 

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「三大ピアニスト」が何故わたしにとって特別なのか。

 

それはズバリ、彼らの生演奏やCDを聴いて衝動的に「それ、わたしも弾きたい」と思い、すぐに楽譜を入手して弾き始めたということが1度や2度ではなく何度もあるから。何かに憑かれたような気分でピアノに向かう。演奏の上手さや人柄の良さだけではない「何か」に惹かれるのだ。

 

他のピアニストでもアレクサンドル・メルニコフ(1973- ロシア)、ルイス・フェルナンド・ペレス(1977- スペイン)、アレクサンドル・タロー(1968- フランス)に関しては、やはり曲を気に入って楽譜を買って弾いたことが何度かある。

 

その他の気になるピアニストたちに関しては、また別の機会に書こうと思う。

 

え?何だって?

スズキさんが挙げたピアニストは男性ばかり?

しかもヨーロッパのピアニストばかり?チョー贔屓しているじゃないかって?

ふん。別にいいじゃないか。気にするな。

 

自分から最も遠い人間に憧れるのは当然のこと。自分とは違う能力、感性、センスを持った人たちから影響を受けたい。わたしから見れば、ヨーロッパの男性ピアニストというのは、自分から最も遠いところにいる人たちだから、惚れ込んでしまうのは仕方ない。

 

女性ピアニストではアンヌ・ケフェレック(1948- フランス)は好きなピアニストで、エレガントで素敵なのだが、一方で本当に憧れるのはエリソ・ヴィルサラーゼ(1942- ジョージア)のようなカッコイイ女性だったりする。ヴィルサラーゼについてはまたいずれ取り上げよう。

 

ではピアニストは一旦ここまで。弦楽器に移ろう。

 

チェロ奏者 ジャン=ギアン・ケラス(1967- フランス)

チェロ奏者のケラスはカナダのモントリオールに生まれて、子ども時代にアフリカのアルジェリアから南フランスに移り住んだ。これだけで、もう、わたし好みの演奏者であるとわかるでしょう。

 

バロックアンサンブルとの共演、近現代のチェロ協奏曲をオーケストラと演奏、新作の初演、バロックや近現代の無伴奏チェロ曲、アルカント弦楽四重奏団での活動。これだけでも十分幅広くユニークな演奏活動を展開していると言えるのだが、数年前に聴きに行った「地中海プロジェクト」はジャンルを超えた音楽として、とてもおもしろかった。


Música mediterrânica - Socrates Sinopoulos, com Jean-Guihen Queyras

 

ケラスさんが南仏に暮らす少年だったころ、ペルシャ音楽の演奏家が近所に住んでいたという。そこの息子達とケラスは幼馴染。何年も時は流れて、ケラスは幼馴染2人と、さらにギリシャのクレタ島の楽器リラの奏者を加えて、ユニットを組んだ。その音楽がゾクゾクするぐらいカッコイイ。

 

ずっとクラシック音楽を追いかけてきたわたしにとっては程よいエスニック感。(この頃から、わたしの興味範囲はヨーロッパから徐々に東に移動して中近東まで及んでいた。)

 

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ヴィオラ奏者 ニルス・メンケマイヤー(1978- ドイツ)

ヴィオラ奏者のメンケマイヤーは、この記事で紹介する演奏者の中では、知ってからまだ日が浅い。ドイツ語の勉強のために聴いていた北ドイツのラジオ番組でたまたま知って、調べてみたら近々来日するという。これは運命かもしれない。聴きに行った。

 

ラジオ番組のドイツ語はごく一部しか理解できなかったのだが、少し流れたモーツァルトCDが気に入ったので買ってみた。同時購入したバッハのカンタータ等のCDも良かったし、コンサートで買ってサインをもらったスペインバロックCDも気に入った。

 

何より、サインをもらうとき、ドイツのラジオ番組で彼のことを知ったと伝えたら、感動の表情で驚いて喜んでくれたのが、わたしとしてはすごく嬉しくてね。どこかお茶目で憎めない人柄とストイックに音楽を追いかける姿が個人的にすごく好感。


Nils Mönkemeyer plays Esa-Pekka Salonen and Béla Bartók | Viola Concerto

 

ソロ・ヴィオラ奏者はカッコイイ。なぜならヴィオラのソロ曲は少ないので、みずから曲を開拓しなければいけない。忘れ去られた曲を発掘したり、作曲家にお願いして新曲を作ってもらったり。その行動力と好奇心が好き。また、人を巻き込んで協力してもらうためのコミュニケーション力とか、人間的な魅力にも惹かれる。

 

だから、ソロ・ヴィオラ奏者には注目するべき。そこに気付くきっかけがメンケマイヤーだった。

 

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他に弦楽器で気に入っている演奏者は、ブログ仲間の記事で知ったヴァイオリンのコリヤ・ブラッハー(1963- ドイツ)、ヴィオラ奏者で指揮者でもあるマキシム・リザノフ(1978- ウクライナ→イギリス)など。あれ?また男性ばかり・・・?

 

 

他にも取り上げたい人が沢山いる。でも、今回はこの辺で終わりにしよう。

 

指揮者、オーケストラ、管楽器奏者に言及がなくて申し訳ない。みんな素晴らしい。でも特別にコメントしたくなるような想い入れやエピソードが今のところ、まだない。歌手については、それほど詳しくないが、また別途取り上げたい。

 

それに、現役の演奏者ばかり挙げてしまった。というのも、わたしにとって、クラシック音楽はもともと生演奏で聴くものという認識なので、どうしても今現在活躍している人を中心に聴いてしまう。CDが気に入ったら、当然、生演奏で聴きたい。

 

往年の演奏者で名を挙げるとすれば、泣くほど感動してCDを聴いたヴァイオリン奏者のフィリップ・ヒルシュホルン(1946-1996 ラトヴィア→ベルギー)、バッハを弾いていたときに知ってアムステルダム旅でも思い出したピアニストのユーリ・エゴロフ(1954-1988 旧ソ連→オランダ)。それから、同じくピアニストのディヌ・リパッティ(1917-1950 ルーマニア→フランス→スイス)も好きだが、リパッティについては他の誰かが既にたくさん魅力を語っているだろうから、わたしが語る必要はない。

 

どんな演奏者が好きか。

それは、上手いとか、人柄が良いとか、そんな次元の問題ではない。上手くて人柄が良いだけの演奏者は沢山いる。

わたしが夢中になって追いかけるのは、わたしの世界を広げていってくれる人。

わたしの知的好奇心を刺激してくれる人。

そういう演奏者をもっと知りたい。今もまだ探している。

 

シリーズ第2弾

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