チェロ奏者 ジャン=ギアン・ケラス 幅広く活動するスーパーマン

Jean Guihen Queyras 
1967年、カナダのモントリオールに生まれる 

 

ケラスを知ったきっかけが何だったか思い出せないが、最初の頃に聴いたCDの1つが、フランスのレーベル、ハルモニアムンディの「啓蒙主義の時代」CD29枚組に入っていたマティアス・ゲオルク・モン(1717-1750)のチェロ協奏曲ト短調だった。知らない曲の雰囲気と流麗なチェロの音色に魅了された。

ハイドン&モン CD(画像をクリック)

 CDボックス 啓蒙主義の時代(CD29枚+CD-ROM)(画像をクリック)

 

いつか生演奏でこのチェリストの演奏を聴いてみたいと思った。2013年はイギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテン生誕100年の記念イヤーだった。ケラスが東京でブリテン作曲の無伴奏チェロ曲を演奏するという。

 

当時のわたしはブリテンを知らず、分かりにくい現代作曲家なのだろうと思っていた。ケラスはブリテンの無伴奏チェロ曲を録音していたので、とりあえずCDを買ってみた。

ブリテン 無伴奏チェロ曲

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ハマってしまったのだった。戦争に反対し平和を愛したブリテンを想いながら、暑い夏の日に聴きたくなる。複雑な心境を感じる曲。見事な演奏。歌曲のようにも聴こえる。

ブリテンCDが気に入ったので、聴きに行くことにした。ブリテンの1週間前にはケラスによるバッハの無伴奏チェロ曲のリサイタルもあり、そちらにも行った。演奏している様子を見ると、弓が勝手に動いているように見える。ケラスは手を添えているだけ。究極の脱力とでも言うのだろうか。

 

この動画はバッハCD録音の様子。ヨーロッパではCDの録音のために教会を使うことがある。パイプオルガンが必要な曲や、宗教曲のときだけではない。石造りの教会の響きはわたしも好き。

 

サイン会で買ったクルターク、コダーイ、ヴェレシュ作曲のCDも凄まじい。いや、凄まじいという言い方は間違っている。洗練された演奏であり、研ぎ澄まされた音である。ただ、そのインパクトがわたしにとっては「凄まじい」。圧倒されてしまう。最初の曲から凄いから覚悟して聴いて欲しい。チェロがいろんなものを吐き出しているような・・・

知らない曲だから新鮮というのもあるかもしれない。でも、こういう演奏なら、むしろ積極的に知らない曲や新作の初演も聴きたい。

クルターク、コダーイ、ヴェレシュ

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このCDにサインをもらったとき、ケラスさんは真っ直ぐ手を差し出して握手を求めてくれた。その手の差し出し方がドキリとするほど美しい。完全に負けてしまった。ピアニストのフランク・ブラレイの記事で「自分もそんな人間でありたい」と言ったが、ジャン=ギアン・ケラスもまた、わたしが「自分もそんな人間でありたい」と思う、人生で参考にしたい人の1人だ。

 

イギリスのメディアのインタビュー記事で「実年齢より10歳以上、若くみえる」と書かれていたが、確かに同感する。ケラスさんは、雰囲気は永遠の少年なのだが、少年らしい演奏ではない。成熟した大人の演奏である。裏表のない純粋な人に見えるが、どうだろう。無伴奏曲などを聴いていると、人間を取り巻く社会のダークな面も知った上で、心を落ち着けて音楽に取り組んでいるように見える。(禅か何かの修行僧か?)ニッコリ微笑んで軽い雰囲気で舞台に出てくるのに、演奏を始めると別人のように集中して、お客さんの存在など忘れているのではと思うこともある。

 

ケラスは、家族がたまたまカナダのモントリオールに暮らしていたときに生まれた、カナダ生まれのフランス人。それからアフリカのアルジェリアに引っ越し、最終的には南フランスのフォルカルキエに落ち着いた。フォルカルキエは美しい村で人口は5000人もいない。ヴァイオリンをやっていた兄の演奏を聴きに行ってチェロという楽器を知り、チェロに夢中になったとき、ケラス少年は9歳だった。

 

フランス出身の音楽家はパリで学んだ人が多いが、ケラスはパリではなくリヨンの国立高等音楽院で学んだ。それからドイツのフライブルク音楽大学、ニューヨークのジュリアード音楽院で研鑽を積む。現在はフライブルク在住で、フライブルク音楽大学で教鞭を執る。

 

複数の土地に縁のある人生を生きているのだが、なぜか日本がお気に入りらしい。好物は「ブルゴーニュワイン、日本食など」とツイッターのプロフィールに書かれている。日本公演でのアンコールはいつも日本語で曲を紹介する。

 

ケラスの演奏活動は、作曲家・指揮者のピエール・ブーレーズが設立した現代音楽専門のオーケストラ「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」の首席ソロチェリストとして始まった。そこでも多くの新作の初演をこなしたのだろう。今でも現代音楽のスペシャリストである。

 

こちらも現代曲初演 アムステルダム生まれの作曲家による作品


Joël Bons – Nomaden (trailer) – Jean-Guihen Queyras & Atlas Ensemble

出てくる各民族楽器もいい感じ。日本の尺八や笙まで出てくる。カッコイイ。これはわたし好みの音楽だ。そして、各楽器の音を聴いてニヤけるケラスさんもいい。こういうの、好きなのね。ケラスさんらしさが見られる演奏映像と言える。

 

わたしがケラスさんを知った頃は、バロックアンサンブルと一緒に来日することが何度かあった。彼のチェロはバロック音楽との相性も良い。

 

では、現代曲とバロック曲が中心なのかといえば、そうでもない。ピアニストのアレクサンドル・タローと録音したシューベルトのアルペジオーネ・ソナタもわたしのお気に入り。ケラスさんとタローさんは最近ブラームスを録音したらしい。気になる。

シューベルト 他

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それから、ケラスの音楽活動を語る上で欠かすことができないのは無伴奏曲。バッハなどのバロック音楽から現代音楽まで幅広く演奏。

 
Mitten wir im Leben sind/Bach6Cellosuiten (2017) — teaser

 

一方で、チームでも活動している。こちらはピアニストのアレクサンドル・メルニコフ、ヴァイオリニストのイザベル・ファウストと組んだ大人気のトリオ。ヨーロッパでは頻繁に3人で演奏しているのだが、東京で3人一緒の演奏が聴けたのは2017年になってからだった。3人によるシューマン・プロジェクトも注目を集めた。わたしは密かにこの3人組の仲間になりたいと思っている。お互いを高め合える、刺激を受けられる人間関係。くぅ・・・羨ましい。


Faust/Melnikov/Queyras - R.Schumann/ from: Piano Trio 2 op.80 in d (live @Bimhuis Amsterdam)

 

さらにはヴィオラ奏者のタベア・ツィンマーマンたちとアルカント弦楽四重奏団を結成して活動している。このカルテットは、わたしはまだ聴けていない。いつか絶対に聴く。

 

そして、「わが偏愛の」でも述べた「地中海プロジェクト」では、ペルシャの打楽器を演奏するケイヴァン・シェミラーニ、ビヤン・シェミラーニ、ギリシャのクレタ島のリラを演奏するソクラティス・シノプロスと組んで、アレンジや即興演奏を演奏している。2016年の来日では能楽堂でも演奏した。それぞれ白い足袋を履いて。

 

それにしても、これだけ演奏活動をこなしながら大学で教える時間などあるのだろうか?

 

鑑賞したコンサートと言えば、そういえば2015年にザルツブルクでもケラスの演奏を聴いた。ブーレーズ90歳を祝う室内楽リサイタルだったが、旅のスケジュールの関係でわたしは死にそうに辛かった。何やってんだ自分、もったいない・・・

 

来日予定

2019年11月 王子ホール

2019年11月 読売日本交響楽団 リゲティ チェロ協奏曲 サントリーホール

 

ケラスさんの演奏仲間、メルニコフさんの記事はこちら

www.music-szk.com

 

ケラスさんの演奏仲間、タローさんの記事はこちら

www.music-szk.com

 

(なぜか2人とも「アレクサンドル」さんだ・・・)

 

 

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