ヴィオラ奏者 ニルス・メンケマイヤー あえてヴィオラ独奏というキャリアを選んだ人はカッコイイ

Nils Mönkemeyer 
1978年、ドイツのブレーメンに生まれる 

 

北ドイツ放送 (NDR) のラジオ番組 Klassik à la carte を、ドイツ語を勉強しているクラシック音楽ファンに薦めたい。ポドキャストで聴ける。

www.ndr.de

 

わたしはまだ十分にドイツ語を理解できていないのだが、ここで学んだ単語もある。インタビューを受けているのは作家などクラシック音楽以外の人もいるのだが、ハンブルクの新しいコンサートホール、エルプフィルハーモニーに演奏に来た演奏家もよく登場する。

 

ピアニストの内田光子、テノール歌手のロランド・ヴィラゾンのインタビューなど楽しく聴いた。他にもピアニストのアンナ・ヴィニツカヤ、エレーナ・バシュキロワ、キット・アームストロング、オーボエ奏者のアルブレヒト・マイヤー、指揮者のヘルベルト・ブロムシュテット(去年祝90歳のとき)、ヴァイオリニストのマイケル・バレンボイムなどのインタビューを聴いた。(言うまでもないが、海外出身者も当然のようにドイツ語でインタビューに応じている。)

 

「ブラチェ」(Bratsche) 奏者のメンケマイヤーという人のインタビューがあったのだが、わたしは「ブラチェ」が分からなかった。調べてみたらなんとヴィオラのことだった。ドイツ語でヴィオラはブラチェというのか。

そういえばヴァイオリンもドイツ語では「ガイゲ」(Geige) と言う。「ガイゲ」は初級ドイツ語の単語として出てくるので知っていたが「ブラチェ」は知らなかった。

 

インタビューでの喋り方が何だかかわいらしいので、おじいちゃん奏者(失礼・・)かと思って調べてみたら、予想よりはるかに若い奏者で驚いた。

 

インタビューの中で何となく分かったのは、「ヴァイオリンを弾いていたけど、自分が本当に出したい音というのがヴィオラだとすんなり出すことができて、"これだ!" と思った」みたいなことや、「ソロヴィオラ奏者として仕事がなくて精神的に辛かった時期がある」みたいなこと。(いや、ドイツ語に自信がないのでわたしの解釈はあまり信用しないで欲しい。)

 

番組のポドキャストではインタビュー中に取り上げた音楽の大部分を省略しているのだが、始まりや終わりの数秒だけ聴ける。そこで、メンケマイヤーのCD “Mozart with Friends” が少しだけ聴けた。わたしは興味を持った。このヴィオラの音が好き。ほんの一瞬なのにそう思った。さっそく買ってみた。

Mozart with Friends

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ヴィオラも良いが 他の演奏者も良い。ピアニストのウィリアム・ヨンは韓国生まれなのだが、このとき初めて知った。最近オーストリアのシューベルティアーデでも名前を見たピアニストだ。このCDのピアノ演奏はかなりわたし好み。ヴァイオリニストのユリア・フィッシャーとクラリネット奏者のザビーネ・マイヤーも演奏している。マイヤーさん、名前は知っていたが抜群にカッコイイ女性だなぁ。CDブックレット写真のファッションと言い、立ち姿と言い・・・

放送で少し流れたのはモーツァルト作曲の「ロンドン・スケッチブック」から。ロンドン滞在中だった神童モーツァルトは当時8歳。おそるべし。CDに入っているのはウィリアム・ヨンによるアレンジ。

CDの解説によるとモーツァルトが所有し演奏していたヴィオラがザルツブルクにあり、メンケマイヤーはそれを演奏したことがあるそうだ。「すごく暗く、メランコリック」な音がしたそうだ。ああ、それって、わたしの心の中のモーツァルトのイメージと同じ。モーツァルトとヴィオラ。ヴィオラ奏者ならではの視点で、ごく私的な空間におけるモーツァルトに近付くCDアルバムを作ったという感じ。

 

これも気になって同時購入した。

バッハ カンタータ 他

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バッハのカンタータのヴィオラ・ソロ編曲というのに、わたしが喰いつかないはずがない。

さらに、カンタータ Ich habe genug (BWV82) の始まりが同じくバッハ作曲のマタイ受難曲の Erbarme dich と同じ旋律だったので、もう釘付けになってしまった。Erbarme dich はマタイ受難曲の中でも強烈な心の痛みを歌った部分。師を裏切るつもりはなかったのに、弱い心から裏切ってしまった弟子の懺悔。マタイ受難曲ではアルトが歌うのだが、その旋律はヴィオラの音色にピッタリ。カンタータBWV82については知らないのだが、このメロディーだけで感傷的になってしまう。身に沁みる。

まるでわたしのための選曲なのかと思った。わたしの好みをよくご存知で・・・

 

そして、このヴィオラ奏者を知ったとき、すぐに来日の予定があることを知った。これは運命かもしれない。聴きに行かなければ。2017年のリサイタルだった。行ってみたら凄かった。音のボリューム、圧倒的な存在感、なるほど彼は紛れもなくソリストだ。

 

サイン会で、ドイツ語で話しかけられれば良かったのだが、やっぱり無理だ。英語に甘んじた。それでも伝えたい。どうしてアナタを知ったのか、どうして今日わたしがここに来たのか。

 

わたしが「クラシック・ア・ラ・カルト」と言っただけで、彼はハッとした表情になり、そのインタビューを思い出したらしい。ドイツの地方ラジオ局の番組を、このろくにドイツ語が分からない遠い日本の音楽好きスズキが「ドイツ語の勉強のため」として聞いていて、そこで知ったヴィオラ奏者に惚れ込んで、CDを買って、今日こうして聴きに来たと。

 

すごく喜んでいた。感動していた。最後にメンケマイヤーは「会えて良かったです」みたいなことをドイツ語で言ってきたので「こちらもです」とわたしもドイツ語で返した。グっと親指立てて見送ってくれた。

 

意気込んでサイン会に並んで話しても、素っ気無い演奏家も多い。演奏後でお疲れだろうし、似たような客が次々来るから退屈なのかもしれない。それは仕方ない。メンケマイヤーほど反応が良いのは珍しい。わたしも嬉しくて、嬉しくて。こうしてあっという間に彼はわたしの「好きな演奏家」に認定された。

 

サイン会で買ったスペインのバロックCDも面白い。メンケマイヤーは現在はドイツのドレスデンの音楽大学で教えているが、一時期スペインのマドリードのソフィア王妃高等音楽院で教えていた。そのときの就任記念コンサートでスペインの作品を演奏して欲しいと言われて、調べてみたら沢山の発見があったらしい。「ヴィオラのソロソナタを11曲も見つけたんだよ!」と興奮気味にCDブックレットで語っている。

スペインバロック

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彼のような好奇心旺盛な人間に、好奇心を発揮するきっかけとなる異国の地の教職ポジションをオファーした人にブラヴォー。

 

CDの謝辞もちょっとばかり面白い。自筆譜が見つからなくてFacebookに泣きついたときに助けてくれた人にお礼を言っていたり、「普段の自分よりイイ感じ」に撮ってくれるフォトグラファーに感謝したり。なんだか憎めないキャラなんだなぁ。

 

この動画の最後の方でスペインバロックの曲が流れている。



 

わたしは前からヴィオラを素敵な楽器だと思ってきたが、オーケストラや四重奏を支える陰の役者として素敵だと思っていた。それはヴィオラの魅力のごく一部だ。

 

いまはソロヴィオラに夢中。ソロヴィオラ奏者の開拓意欲と好奇心。知られざる曲を発掘したり、既存の曲をヴィオラ用にアレンジしたり、新たな作品の作曲を依頼したり。演奏仲間を巻き込むプロフェッショナル精神と人柄。ヴィオラの音は、人間の心の声を代弁しているようだ。強くドラマチックだったり、弱々しく悲しげだったり、死にそうだったり生命力に溢れていたり・・・

 

ソロヴィオラ奏者に注目するきっかけを与えてくれたメンケマイヤーに感謝。

 

動画から察するに、彼はとにかくお喋り。「我が偏愛の・・・」で紹介した動画では、本番演奏直後のインタビューなのに喋りまくる。演奏している姿はカッコよく見えるのだが、喋っている様子はお喋りなおばちゃんのような・・・(ごめん。冗談よ)。

 



 

来日情報

わたしが知る限り、しばらく来ないと思われる(涙)

 

でも、つい最近来日していた。2018年6月に日本を拠点に活動する演奏家たちとモーツァルトを演奏。わたしは行かなかったのだが、お客さんも演奏者もきっと大いに楽しんだことでしょう。

 

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