ミケランジェロ・ファルヴェッティ作曲 オラトリオ「ナブッコ」 イタリア バロック音楽

わたしが気に入っている作品を紹介したい。これは何百年も忘れ去られていた音楽だった。発掘されて音楽が蘇った。

 

いま、CDやコンサートで鑑賞できる音楽だけがクラシック音楽なのではない。何らかの事情で楽譜が紛失してしまった曲、楽譜はあるが演奏困難な曲、楽譜はあるが忘れ去られた曲などがどこかでたくさん眠っている。

 

忘れ去られた曲というのは、必ずしもダメな曲というわけではない。聴衆や演奏者の好みは時代と共に変化する。他におもしろい作品がどんどん出てきたから聴かなくなってしまっただけ。多くの時代で、人々は聴き慣れた音楽より新作の刺激を求めていた。当然、それぞれの時代に合った音楽が好まれていた。過去の作品が公開で演奏されることはあまりなかった。録音技術はなかったので、演奏機会のない過去の作品を知る手段は限られていた。

 

せっかく楽譜があっても、保存状態が悪かったり、数ページ抜けていたり、誰かの手により書き換えられていたり、手書きの写譜が不正確だったり、様々な問題がある。

 

たとえ楽譜が良い状態であっても、作曲者は自分自身(あるいは同時代の他の演奏家)が演奏することを想定して楽譜を書いたので、数百年後の現代の演奏家にとっては読みにくい。その当時において当たり前だったことはわざわざ書かれていない。限られた資料から推測して演奏を再現する。ほとんど謎解きの世界だ。

 

わたしも過去の音楽を発掘したいと思うのだが、それは自分のような素人には不可能なのだ。

 

埋もれた作品を発掘して、研究して、音楽を再現してくれるプロの演奏家の皆さんに感謝したい。

 

そんな忘れ去られた音楽を現代に蘇らせてくれる音楽家のうちの1人が、1976年アルゼンチン生まれの指揮者レオナルド・ガルシア・アラルコン。彼が注目したのは南イタリアで活躍した作曲家ミケランジェロ・ファルヴェッティだった。

 

ミケランジェロ・ファルヴェッティ

Michelangelo Falvetti

1642年~1692

 

作曲家ファルヴェッティは、ナポリ王国に生まれてシチリア王国で活躍した。当時のヨーロッパは「イタリア」とか「ドイツ」などという国ではなく、各地に小規模な「王国」などがあって、攻撃し合ったり同盟を結んだり、いろいろ複雑だった。

 

ファルヴェッティの作品の楽譜はオラトリオ「大洪水」とオラトリオ「ナブッコ」の2作品のみが現存。アラルコンはこの2つの作品の演奏を実現させた。

 

指揮者のアラルコンは、わたしが知る限り、おそらくまだ日本では演奏していない。わたしは、2017年に旅先で偶然、アラルコンが指揮する「ナブッコ」を鑑賞する機会に恵まれた。

 

CDと解説を入手したのは鑑賞の一週間前で、予習はギリギリだった。

 

「ナブッコ」と言えば音楽好きはヴェルディのオペラ「ナブッコ」を思い出すだろう。でも、わたしはまだヴェルディの「ナブッコ」は鑑賞したことがない。どちらも同じ人物が主人公なのだが、場面は全然違う。

 

ミケランジェロ・ファルヴェッティ作曲

オラトリオ「ナブッコとの対話」(1683)

Michelangelo Falvetti

Nabucco (Il Dialogo del Nabucco)

CD(画像をクリック)  

 

あらすじ

内容は旧約聖書のダニエル書に基づく。主な登場人物はバビロニアの王ナブッコ(ネブカドネザル2世)、預言者ダニエル、3人の若いユダヤ人。ナブッコは不安から悪夢を見る。預言者ダニエルは夢の意味を説く立場。3人のユダヤ人少年は自身の宗教に対する信仰心厚く、王ナブッコの銅像を崇めることを拒否。怒ったナブッコは3人を火あぶりの刑にした。ところが、奇跡が起きる。3人は火の中で死ぬことなく、生きて、火の中で喜び歌う・・・

 

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スズキ的おもしろいところ

  • 絶望感あふれる陰気なナブッコ。悪夢にうなされたり、王の立場の辛さを嘆いたり、自分の巨像を建てたり、カッとなって少年達を火刑にしたり。
  • 火あぶりになる3少年(女声)がカワイイ(笑) 高い声でケラケラ笑ったり、死ぬのは恐いと震える声で歌ったり、火の中で生き延びて喜び歌ったり・・・ 女性3人が明るく歌うのでアイドル3人組のような雰囲気。こんなに愛らしいのにブレない強い信仰心を持っている少年達。
  • 打楽器がエキゾチックでカッコイイ。

    どこかで聴いたことがあるように思った。アンサンブルに参加した演奏者一覧を見て納得した。打楽器を担当していたのはペルシャの音楽家の息子でフランス生まれのケイヴァン・シェミラーニだった。チェロのジャン=ギアン・ケラスと仲間達が組んだユニットで知った打楽器奏者。解説によると、打楽器部分の演奏の再現にあたりケイヴァン・シェミラーニが指揮者アラルコンに協力したとのこと。

    エキゾチックと言えば、何ヶ所か尺八のような笛が聴こえる部分がある。トルコの楽器ネイNeyの音らしい。

    バロックオペラというと単調で退屈だと思う人もいるかもしれないが、この作品は東洋の雰囲気があり、ビート感もあり、飽きずに楽しめる。
  • ナブッコの部下で軍司令官のアリオコの中性的な爽やかさ?が好き。アリオコはカウンターテノール(裏声で女声音域を歌う男性歌手)が歌っている。

    男性役なのに、なぜ高い声で歌わせるのかは謎。当時はカストラート(裏声ではなく "去勢" して少年のような高音を保てるようにした男性歌手)が歌ったのかも。バロックの時代は男性役を高音で歌わせることもよくあったという。アリオコもその例の一つなのだろう。
  • 作曲当時、南イタリアはスペインの支配を受けていて、その圧政に苦しんでいたとのこと。このオラトリオの内容は、無邪気だけど勇気ある少年達が神に守られて支配者に打ち勝つというもの。当時の聴衆の感想を知りたい。感動して泣いてしまったのか、ストレス解消として手を叩いて笑いながら楽しんだのか。

 

公演データ

2017年4月29日

コンセルトヘボウ(オランダ、アムステルダム)

指揮 レオナルド・ガルシア・アラルコン Leonardo García Alarcón

カペラ・メディテラネア Cappella Maditerranea

ナミュール室内合唱団 Choeur de Chambre de Namur

歌手の皆さん(記載省略)

 

当日の演奏についてはオンガクズキノスズキによるアマゾンKindle本をご覧ください。

 

これはプロローグの場面

 

 

 

いつか、指揮者アラルコンと皆さんが来日してオラトリオ「大洪水」を演奏してくれますように。

 

え?「ナブッコ」がいい?

スズキはまだ聴いていない「大洪水」を聴きたいな・・・

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