東京 目黒のクラシック音楽バーに行った

その日は2回目の訪問だった。

 

他のお客さんの音楽トークを盗み聞きしようと思って行くのだが、18時の開店直後、いつも客はわたし1人。バーのオーナーと会話しながら他の客を待つ。

 

バーの名前はフランス語なのだが、オーナーの話を聞くと、ロシアや東欧に情熱を注ぐ人々がよく来店しているような印象。かくいうわたしはまだまだロシアや東欧世界においては新参者なのだが、ロシア語もはじめたし、東欧各地にも関心があるので例外ではない。

 

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ようやく2人目のお客さんが来た。

その方とオーナーとの会話を聞いてみると、話題になっていたのは山田耕筰の「桃太郎」。

 

なんだそれ!?桃太郎!?

スズキのアンテナが反応した。

 

「そ、それは歌曲ですか・・・?」

 

違った。それは「夢の桃太郎」というピアノ組曲だそう。そして、このクラシック音楽バーには何故かこのとっても珍しいピアノ曲のCDもある。それをバーのオーディオでかけてくれた。聴きながら会話を続けた。

 

園田さんと名乗ってくれたお客さんはピアニストで、来月、この曲をコンサートで演奏するとのこと。複数の演奏者が交代で演奏するコンサートらしい。パンフレットをもらった。珍しいものと出会えそうな予感。行ってみよう。

 

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会場は代官山の教会。園田さんと目黒のバーのオーナーが受付にいたのでご挨拶。

 

プログラムは普通のクラシック音楽の他、自作の弾き語り、自作初演、ハイドン弦楽四重奏曲のピアノ編曲、スクリャービン後に活動した名前さえ知らないロシアの作曲家4人のピアノ曲、ミニマリズム作品?など。

 

どっさり手渡された資料に圧倒された。演奏者プロフィールや各演奏者による曲の解説などなのだが、形式や内容はバラバラでおもしろい。曲名だけを手書きした紙があったり、数ページに及ぶ詳細な説明があったり。(こんなに情報をいただいていいのですか!?)

 

園田さん自身による山田耕筰のリサーチも楽しい読み物として充実の内容。

 

受付でお会いしたとき、園田さんは濃いメークだったので、スズキはきっと彼女は今日、ここで踊るつもりなのだと思っていた。けっこう自信あった。

 

しかし、予想は覆された。

 

チーン、と鐘を鳴らしながら入場した園田さんは何と紫色の美しい振袖姿だった。

 

客席が呆気に取られてシーンと静まり返る中でピアノ演奏が始まった。この教会は、鐘の音もそうだが、ピアノの音も非常によく響く空間。彼女は、あっという間に場の空気を作り、違う世界に導くピアニストだった。

 

無防備なまま、最後まで完全に園田さんの世界に巻き込まれてしまった。(でも、圧倒されつつも、完成度の高い洗練されたピアノ演奏も聴き逃さなかった!)

 

 

それから、ある演奏者の発表も衝撃だった。

 

1曲目は、演奏者3人が無言でひたすらお互いに握手をする。

 

頑張って握手を繰り返すのだが、なぜか満足できない。微妙な空気が流れる。そこで、1人が閃いた。客席からお客さんをもう1人引っ張ってきて4人で握手をした。

 

ようやくみんな嬉しそうになった。

 

2曲目は、3人のうち2人がひたすら時刻を読み上げる。何時何分何十何秒まで言わなければいけない。さすがに毎秒読み上げることはできない。遅れてしまう。それでも各自一生懸命。

 

3曲目は、1人で演奏。

 

彼は袋からぬいぐるみを取り出してピアノの蓋の上に置いた。縦長のぬいぐるみ(サボテン?埴輪?)なので、なかなか立たせられない。がんばれ。よし、立った。

しーん。

 

それから彼は、ぬいぐるみをピアノの上から取り除き、別の安定感のある四角いぬいぐるみを袋から出してピアノの上に置いた。

しーん。

 

そして、今度はポケットから小さなネジマキおもちゃを取り出し、ネジを巻いてピアノの上に置く。ジーーと音を立てながらおもちゃは前進する。止まってしまった。指で押すとまた動いた。

 

そして演奏者3人が頭を下げてご挨拶。終わったらしい。

 

この3曲はいったいなんだったのだろう。改めてプログラムで曲名を確認して、わたしは声を出しそうなくらい驚き、1曲目と3曲目については激しく納得した。曲名は以下のとおり。

 

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うわー!うわー!うわー!!!

確かに!!

やられたー!!

 

いわゆる現代音楽が演奏されると思っていた。「演奏者」の1人はゲストだった。受付でもらった資料の中に、ちゃんとヴァイオリニストとしての経歴が書かれていたので、最終的にはみんな楽器を持って何かを演奏すると信じていた。それなのに、最初から最後まで楽器は使われなかった。(ピアノの蓋以外は・・)

 

まんまと期待通り引っかかったワタシって・・・

 

でもいまだに2曲目の意味がわからない。

 

しかし、こんな体験は初めてだ。おもしろかった。

 3曲目、わたしも演奏したい。。

 

ミニマリズムの作品?とでも言うのだろうか?この演奏の直後の休憩時間、ロビーで演奏者とお客さんがかなり興奮気味で話しているのが聴こえてきた。この演奏を目当てに来た人たちも結構いたらしい。

 

コンサートを最初から最後まで4時間も鑑賞した。プログラムを見たら、途中で帰るわけにはいかなかった。知らないことを知りたいわたしにとってはとても楽しめたコンサートだった。

 

雰囲気も良かった。

 

わたしは小規模なサロン風のコンサートが好きなのだが、そういうコンサートは客席のほとんどが演奏者の友人や家族親戚など知り合い同士ばかりで、第三者としては少々居心地が悪い。

このコンサートも客席の多くは演奏者の知り合いなのだろうけど、演奏者たちのプログラムがあまりにもバラバラなので、お客さんも統一感なくイイ感じにバラバラ。それぞれ自由に楽しんでいる雰囲気だったので居心地が良い。

 

この日の演奏者の数人が参加するコンサートのパンフレットが気になったのだが、都合が付かず、行けなかった。ロシアの作曲家ツェーザリ・キュイに関する企画だった。(わたしは焦って間違って園田さんに「ムソルグスキーの企画もおもしろそうですね」と言ってしまったけど。)行きたかったな。キュイが主役のイベントなんて絶対に滅多にないのに。レクチャー付きだったはず。行けなくて残念。

 

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バーで偶然知ったコンサートを楽しんだ。良かった。良かった。

 

ピアノ・ユニット「カントル×ムジクス」
http://cantor-musicus.com/

 

目黒のクラシック音楽バー bar valse (バー ヴァルス)
https://chateau051976.wixsite.com/bar-valse 

 

どうでも良いのだが、目黒駅にはわたしを誘惑するパン屋がある。クラシック音楽バーの帰りについつい買ってしまうドイツパンが。

 

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