我が偏愛の・・・ 2

シリーズ名から「天才たち」を外した。

「偏愛の」という部分の方が大事なのだ。ここで紹介する演奏家たちは、わたしが語りたくなるエピソードが沢山ある演奏家たち。どんなに天才であっても、その演奏が好きであっても、極めて個人的な「偏愛」ストーリーが無い限り、このシリーズで取り上げることはできない。だから、「天才たち」はシリーズ名から外した。

 

 シリーズ第1弾

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シリーズ第2弾

 

 

ピアニスト アレクサンドル・タロー (1968- フランス)

シリーズ1でピアニストのフランク・ブラレイとエリック・ル・サージュを紹介したように、当時のわたしはフランスに夢中だった。一時期、フランスのピアニストばかり聴いていた。その中で面白いと思ったのが太郎さん、いや、タローさんだった。


Alexandre THARAUD - Scarlatti, Sonata K141

 

このスカルラッティのCDをサイン会で買ってサインをもらおうと思ったのに、そのときはこのCDは売り切れだった。(今もまだ持っていない・・・)

 

最初に買ったCDの1つがバロック時代のフランスの作曲家ジャン=フィリップ・ラモーの鍵盤曲だった。まだまだ素人だったわたしはバロックと言えばバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディぐらいしか知らなかった。わたしにフレンチバロックの世界を教えてくれたのはタローさんのCDだった。

タローさんと言えば、1920年代のパリのキャバレーで流行った音楽を再現したCDもわたしの大のお気に入り。エンターテイメント的なところもあるが、ただのエンタメとは大違い。洒脱で洗練された雰囲気はタローさんならでは。

タローさんと言えば、何故かフランスの映画俳優でもある。名監督ミヒャエル・ハネケの作品に出ていて、同作品はカンヌで賞をもらっている。

 

タローさんと言えば・・・続きは詳細ページで(笑) とにかく唯一無二の人物だと思う。とんでもなくオシャレで美しい人間と思わせておきながら、意外と「笑い」も提供してくれる不思議な人。

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ピアニスト ルイス・フェルナンド・ペレス (1977- スペイン)

わたしの中の「フランス・ブーム」が落ち着いた頃だった。フランス発の音楽祭ラ・フォル・ジュルネにも飽きつつあった。そんなときに、突然あらわれたヒーローがピアニストのペレスさんだった。


Luis Fernando Pérez, piano Enrique Granados - Danza Española nº 5 "Andaluza"

 

彼は、東京のラ・フォル・ジュルネ音楽祭で、スペインが誇る作曲家イサーク・アルベニスのピアノ組曲「イベリア」全曲を演奏した。渾身の演奏と精度の高い出来映えに本人も観客も興奮が冷めず、夜遅い公演だったのに、勢いが止まらないペレスさんは会場スタッフに「ゴメン、お願い!もう1曲だけ!」のジェスチャーをしながら、4曲もアンコールを弾いた。長身に銀髪で蝶ネクタイのペレスさんは、ステレオタイプなスペイン男のイメージとはかなり違う姿だが、ラテンの情熱を感じさせる部分もある。

翌日のマスタークラス(プロが音大生などを指導する公開レッスン)も面白かった。スペインの曲に取り組む生徒を嬉しそうに笑顔で眺めながらも、ダメ出しばかりで一切褒めないペレス先生の厳しさ! とても感じ良くニコニコしながら指導しているのに非常に厳しい(笑)

 

スペインにはアルベニスの他にもグラナドス、ファリャ、モンポウなど素晴らしい作曲家がいるのに、クラシック音楽界において、スペイン音楽の扱いは良いとは言い難い。わたしが知る限り、スペイン作品が比較的よく演奏されているのはスペイン本国以外ではフランスぐらい。たとえば、ロシアの演奏家がスペイン音楽を演奏することは滅多にないし、わたしが旅したドイツ語圏でも、スペイン音楽が入っている公演プログラムはほとんど見たことない。

そんな状況をスペインの演奏家は残念に思っているのだろう。スペインの作曲家の魅力を伝えたいというのが、ペレスさんの演奏活動の原動力の一つでもあると思われる。

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ピアニスト アレクサンドル・メルニコフ (1973- ロシア)

一部の演奏家を贔屓するようになると、CDレーベルにも少し興味が沸いてくる。フランスのharmonia mundiからCDを出しているピアニストとして知ったのが最初のきっかけだったと思う。それとほぼ同時に、彼が東京でショスタコーヴィチの24の前奏曲とフーガ全曲を演奏するリサイタルがあるということを知った。チケットとCDを購入した。

パリ旅の直前、2012年2月に聴いたそのコンサートは、休憩2回、演奏は3時間の長丁場。分かりやすい盛り上がる音楽ではない。緻密でストイックな音楽。わたしがショスタコーヴィチに惚れ込んだのはこの頃からだったはず。ロシア的な旋律だけでなく、ユダヤ音楽の影響も(ショスタコーヴィチには作曲家のヴァインベルクなどのユダヤ系の友人がいた)。ショスタコの音楽はわたしにとって程よい「現代」度。リサイタルの後、わたしは曲の楽譜を買い、翌年のリサイタルで楽譜にメルニコフ氏のサインをいただいたのだった。

 

メルニコフさんはフォルテピアノを数台所有している。チェンバロも弾く。彼が上野の1910年製プレイエルで演奏したときの、ピアノとピアニストの妙な結びつきが何とも言えない。完全に「2人」の世界に入っている。ピアノという物体への尽きない興味関心と想いを感じる。

こちらは1837年製エラールでシューマンのピアノ協奏曲を弾くメルニコフさん。


"Schumann: Piano Concerto" (Album Presentation)

 

彼の演奏仲間にヴァイオリン奏者のイザベル・ファウストとチェロ奏者のジャン=ギアン・ケラスがいる。ケラスはよく「サーシャ(メルニコフのこと)は本当に知的好奇心が強くて」と、お互い刺激を受け合っていることを語っているが、わたしは羨ましくてしかたない。わたしも彼らの仲間になりたかった・・・

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ピアニスト エリソ・ヴィルサラーゼ (1942- ジョージア)

シリーズ9人目にしてようやく女性が登場。ヴィルサラーゼさんはカッコイイ女性ピアニスト。昔のCDジャケットでは黒髪ボブカットにサングラス姿。今でもボブカット。でも、表情は柔らかく、品と知性を感じる。


Eliso Virsaladze - Beethoven - Piano Concerto No.4 G Major, Op. 58

 

これまでに聴いた演奏で1番カッコ良かったのは鹿児島の霧島音楽祭で聴いたプロコフィエフのピアノソナタ第2番。説得力のある演奏に圧倒されて泣けてきたり、笑えてきたり。作曲家プロコフィエフからピアニストのリヒテル、そしてヴィルサラーゼさんまで、何かが繋がっているような気がした。

 

さて、演奏も人物も気に入っているのだが、わたしは「詳細」で大脱線してヴィルサラーゼさんの出身国ジョージア(グルジア)について語りたい。この中央アジアのコーカサス地域は個人的に大注目のエリアであり、何故か凄まじく惹かれる。きっとわたしの前世はコーカサスに暮らす人だったのだ。(なんちゃって)

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オペラ歌手(テノール) ロランド・ヴィラゾン (1972- メキシコ - フランス)

ピアニストばかり紹介してきたが、ここで突然オペラ歌手を紹介する。しかもこの方を紹介する。わたしは彼の生演奏を聴いたことはないし、CDさえ持っていない。所有しているのはDVD1本のみ。それにも関わらず、彼については語りたいことがいくらでもある。「我が偏愛の・・・」シリーズに相応しい人物と言える。


Rolando Villazón: Bravo! A collection of the tenor's greatest arias

 

数年前、オペラ「ドン・カルロ」DVDで名前を知ってYouTube検索してみたとき、まるでコメディアンのような動画を見つけて驚いてしまった。一方、ドイツのラジオ局のインタビューでは流暢なドイツ語を披露していて、ドイツ語学習者のスズキは少し悔しかった。しかし何故、そこまで流暢なのか?それに、プロフィールにはテノール歌手の他に「作家」とも。メキシコ出身、ドイツ語が得意で、フランス在住。何だか奇妙な人だ。(流暢なドイツ語については後に背景が判明する。)

 

ヴィラゾンは、オペラ歌手アンナ・ネトレプコの相手役なども務める第一線で活躍する歌手なのだが、人気絶頂の時に喉の手術を受けたこともあり、コメディアンのように笑ってばかりいられないはず。それでも彼はジョークを発することを真剣に(?)継続している。黙って机に座って物書きをしている様子など想像できないが、作家としても活動している。

表向きはスーパー明るいポジティブ人間だけど、そうではない面も密かに持ち合わせているのだろうと思えるから、わたしは彼が気になるのでしょう。

 

オペラ歌手はただ歌が上手いだけでは不十分で、人間の人生の喜びから悲しみまで、強い感情や複雑な感情も含めて理解し、受け入れられる精神の強さを持っていなければ、役に負けてしまう。ピアノではオトナの世界を分かったふりした幼い子どもが感情を込めて美しい演奏を披露して拍手喝采を浴びることもよくあるが、オペラはそうはいかない。子どもには表現できない本物のオトナの世界だから、わたしはオペラの世界が好き。

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どんな演奏者が好きか。

それは、上手いとか、人柄が良いとか、そんな次元の問題ではない。上手くて人柄が良いだけの演奏者は沢山いる。

わたしが夢中になって追いかけるのは、わたしの世界を広げていってくれる人。

わたしの知的好奇心を刺激してくれる人。

そういう演奏者をもっと知りたい。今もまだ探している。

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