ピアニスト アレクサンドル・タロー アイディアとセンスが素敵

Alexandre Tharaud 
1968年、パリに生まれる 

 

フランスの作曲家ダリウス・ミヨーのバレエ音楽「屋根の上の牛」という作品がある。アレクサンドル・タローのCDのタイトルにこの作品名が採用されている。なぜなら、それは1920年代パリで人気だったキャバレーの店名でもあるから。


Alexandre Tharaud: Chopinata, from "Le Boeuf sur le toit"

それにしても、なんともオシャレ過ぎるタローさんの演奏!

演奏している曲はショパンの曲をベースにしたジャズ風アレンジ「ショピナータ」。作曲したのはクレマン・ドゥセ Clément Doucet (1895-1950) というベルギー出身のピアニスト。1920年代のパリのキャバレーで活躍していた。ドゥセとジャン・ヴィエネルJean Wiéner (1896-1982) によるピアノデュオが人気だったという。第一次世界大戦が終わって、人々が明るさを取り戻した時代だった。パリの音楽界はジャズやタンゴなどの影響も受けてにぎわっていた。

 「屋根の上の牛」

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CDではタローさんの友だちの歌手やピアニスト(ブラレイさん!)、パーカッションやバンジョー奏者まで参加している。それぞれがまた絶妙なイイ味を出している。ガーシュインの曲も入っている。

CDにも入っているジュリエットさんの歌声をぜひお聴きいただきたい。2人が爽やかに入場するところから観てくださいね。


Alexandre Tharaud, Juliette, "J'ai pas su y faire".

 

タローさんは、2012年に、このCDの内容中心のライブをニューヨークのジャズクラブのようなところで演奏している。日本でも是非やっていただきたい。例えばブルーノート東京とか、どうだろう? タローさんは比較的よく来日するが、バッハなど、スタンダードなクラシック音楽を演奏することが多い。(ジャズピアニストとの共演が1度だけあった。)それでは、タローさんの特質の一部しか楽しめない。何とかならないだろうか。

 

フランスのバロック音楽の話に移ろう。

フランスのバロック音楽と言えば、ピアノファンにとってはジャン=フィリップ・ラモー (1683-1764) とフランソワ・クープラン (1668-1733) の鍵盤曲が挙がる。ピアノを学ぶフランスの子どもたちはラモーやクープランを練習するそうだ。わたしはクープランよりラモーの方が好き。何故かはわからない。何となく雰囲気が合うと思っている。先に聴いたのがラモーだったからかもしれない。

バロックと言えばバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディぐらいしか知らなかったわたしにとって、フランスのバロック音楽は刺激的だった。何も分かっていないクセに、勝手に優雅さや美しさを感じて楽しんでいた。

ラモー 新クラヴサン組曲
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タローさんは、ラモーCDで、楽譜上は均等な音を、付点を付けてリズムを変えて弾いている。バロック時代のフランスでは、この弾き方は洗練されていてカッコイイとされていたと、後にあるトークコンサートで知った。「イネガル奏法」(inégales つまり均等=イコールの逆)と言う。そんな事情は知らずにこのCDを聴いたので、タローさん流の洒落たアレンジなのだと思っていた。そう思わせてしまう雰囲気を彼は持っている。自分でもラモーの楽譜を買ったときに真似して弾いてみた。

ラモーの「雌鶏」La Poule も面白い。「コッコッコッコ・・・コケーこっこ」鶏ライフの儚さを嘆く黄昏詩人のような鶏さん。「アタシだってツライのよ!カナシイ歌を歌わせてよ!コケーコッコ!」(スズキの妄想)

ラモーのオペラ=バレ「優雅なインドの国々」から「未開人たち」Les sauvages もCDに入っている。よく自分でも弾いた。(ちなみにこの時代の人が言う「インド」は不特定の遠い異国を指しているのであり、必ずしもインドを指しているわけではない!)いずれオペラ=バレ(オペラ+バレエ)としての「優雅なインドの国々」も鑑賞したい。

 

ラモー贔屓のスズキだが、タローさんのクープランCDも面白い。アルバム名にもなっているTic Toc Choc など特に。

クープラン Tic Toc Choc
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このCDジャケットも洒落ている。アーティスティックである。

 

アーティスティックと言えば、タローさんのインスタグラムも洒落ている。各地でピアノ鍵盤に何かプラスして撮影している。そういえばタローさんは自宅にピアノを所有せず、友人の留守中に友人のピアノを借りたり、スタジオで練習したりしていると、どこかのインタビューで読んだことがある。

www.instagram.com

久し振りにタローさんのインスタ見たら、ついついずっと見続けてしまった。おもしろい。おふざけが行き過ぎているのもあるが、タローさんならOKとしよう。彼はやはり根っからのアーティストなのだ。

 

アーティストなピアニストのタローさんが出演した映画はこちら。


Amour (2012) - Official Trailer [HD]

愛、アムール Amour

2012年 オーストリア、フランス、ドイツ

主人公の老夫婦は元ピアノ教師で、教え子のアレクサンドル(タローさん)はプロのピアニストとして活躍している。老夫婦の妻は病気で介護が必要になり、夫は1人で妻を世話する。最期は・・・

タローさんの役は重要な役ではなく、本人役なのだが、まるで知人が映画に出ているような不思議な感覚で鑑賞した。

 

タローさんの面白い場面を捉えた動画をご覧いただきたい。台湾でのインタビューだ。


Alexandre Tharaud & Jean-Guihen Queyras interview in Taiwan

開始早々、タローさんは、そわそわしながら気合い満々で現地語での挨拶に臨んだのだが、見事に失敗して、なんとお笑い芸人並の勢いでその場に崩れ落ちる。(その前に、司会者がケラスさんの名前を発音できないという場面もある。)

どうやら、最初からやり直すことになったらしい。ケラスさんは、念のため、もう一度練習として司会者に自分の名前を発音させている。2回目は全員うまくいったらしい。よかったね。

そこから英語インタビュー開始。タローさんもケラスさんも真剣に司会者からの英語質問を聞く。しかし、ここでケラスさん、何故か面白発言。

ケラス「ぼくはアレクサンドルの服が好きなんだ」

司会者「ふ、服・・・!?!?」

ケラス「ははは、ジョークだよ」

ところで、司会者もケラスも英語で会話しているのに、なぜかタローだけ終始フランス語で話す。どう考えても英語で話すべき場面なのに。空気を読まず、にっこり笑顔で我が道を行くタローさん。

タローさんは英語を喋りたくないのか?外国語が嫌いなのか?

外国語が嫌いというわけではなさそうだ。ただ、何か独特のコダワリがあるのだろう。わたしが東京でタローさんのピアノデュオコンサートを聴いたとき、彼は全曲を日本語で紹介した。誰かに書いてもらったローマ字を1つ1つ丁寧に読み上げた。それに、動画の冒頭でも中国語で挨拶を試みているし。そういえば、彼がツイッターを始めたとき、各国語で「こんにちは」を叫んでアピールしていたなぁ。興味関心はあるが、自分が望む形式でのみ外国語を話すという方針なのだろう。

 

タローさんがこれまでに録音してきたソロ作品は他にプーランク、サティ、シャブリエなどのフランス物と、バッハ、ショパンなどがある。他にチェロのケラスと共演でプーランク、ドビュッシー、シューベルトなども。

「屋根の上の牛」の後も、彼はユニークなCDを次々制作している。魅力的な仲間たちを巻き込みながら。 

来日も多く、今年も日本でオーケストラとの共演やソロリサイタルをやっていた。タローさんは、神経質そうに見える。寒くない季節でもよくマフラーを巻いている。アジアやアメリカでもよく演奏しているし、CD録音も多く、かなり精力的に活動しているのだが、ストレスとか大丈夫なのだろうか。きっと、自分をよく知り、うまく調整しながら生きているのだろう。どこまでも洗練された人間だ。

 

タローさんみたいなアイディア豊富で幅広い人間関係を築いている人が、自由にアーティスト活動できる世の中が続いて欲しい。彼のようなアーティストを支える国フランスにまた憧れる。タローさんみたいな人は日本にはいないだろうから。

 

来日情報

2019年11月 王子ホール

2019年11月 読売日本交響楽団 プーランク ピアノ協奏曲 東京芸術劇場

 

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