ピアノ・リサイタル アブデル・ラーマン・エル=バシャ 72の前奏曲 第1夜

レバノン出身、フランスで学んで日本を含む世界各地で活躍・・・と言っても日産のゴーンさんではなく、ピアニストのエル=バシャさんのことです。

わたしは演奏家を基本的に「さん付け」で呼んでいるのですが、エル=バシャさんのことはエル=バシャ様とか、エル=バシャ先生と呼びたくなることもあります。そんな実力と雰囲気をお持ちの方です。

それだけではなく・・・つまり、好きなんですよ(笑)

昨日、久し振りにエル=バシャさんの動画をいくつか見てニヤけてしまいました。彼のような品のある落ち着いた素敵なおじさまは日本ではなかなかお目にかかれません。(がんばれ日本のおじさまたち・・・)

2夜連続コンサートの1日目が終わりました。明日、まとめて書こうと思っていたのですが、おそろしく長くなってしまいそうなので、今日の分は今日書くことにしました。

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アブデル・ラーマン・エル=バシャ
Abdel Rahman El Bacha
60歳記念2夜連続ピアノ・リサイタル

72の前奏曲 第1夜
2018年12月13日
武蔵野市民文化会館 小ホール

バッハ、ショパン、ラフマニノフ
24の調の前奏曲

バッハ
平均律クラヴィア曲集の第1巻または第2巻の前奏曲

ショパン
24の前奏曲 Op. 28

ラフマニノフ
「鐘」Op.3-2、13の前奏曲 Op. 32、10の前奏曲 Op. 23


第1夜

ハ長調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 1番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 1番
ラフマニノフ 13の前奏曲より 1番

ハ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 2番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 20番
ラフマニノフ 10の前奏曲 7番

嬰ハ長調(変二長調)
バッハ 平均律クラヴィア曲集 2巻 3番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 15番 雨だれ
ラフマニノフ 13の前奏曲 13番

嬰ハ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 2巻 4番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 10番
ラフマニノフ 幻想的小作品集 前奏曲「鐘」

二長調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 5番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 5番
ラフマニノフ 10の前奏曲 4番

ニ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 6番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 24番
ラフマニノフ 10の前奏曲 3番

(休憩)

変ホ長調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 2巻 7番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 19番
ラフマニノフ 10の前奏曲 6番

変ホ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 8番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 14番
ラフマニノフ 10の前奏曲 9番

ホ長調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 9番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 9番
ラフマニノフ 13の前奏曲 3番

ホ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 10番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 4番
ラフマニノフ 13の前奏曲 4番

ヘ長調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 11番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 23番
ラフマニノフ 13の前奏曲 7番

ヘ短調
バッハ 平均律クラヴィア曲集 1巻 12番 前奏曲
ショパン 24の前奏曲 18番
ラフマニノフ 13の前奏曲 6番

 

プログラムについてはアムステルダムのムジクヘボウで演奏したときのインタビューでも語っている。この動画で宣伝しているコンサートは2017年4月に催されたので、その頃には既にこの「72前奏曲」プログラムに取り組んでいたとうこと。


Muziekgebouw aan 't IJ | Abdel Rahman El Bacha - 72 preludes | 1 april 2017

 

最初にこのプログラムを見たとき、果たして弾き手も聴き手も頭の切り替えができるのだろうかと思った。

でも、どうやら切替は必要ないらしい。エル=バシャさんはバッハのハ長調、ショパンのハ長調、ラフマニノフのハ長調で1つの流れ、さらにハ長調とハ短調で一段落、という感じで進めていく。

頭の切替は必要ないとはいっても、時代の違う短い曲を次々弾いていくというのに、エル=バシャさんは相変わらず楽譜無しで、ステージの照明も暗め。普段は楽譜無しでも、こういうプログラムのときは念のため楽譜を用意するピアニストもいるだろうに。彼の頭の中ではおそらく既に、調性ごとのプログラムの流れを十分掴んでいるのだろう。

プロのピアニストなら暗譜は当然だと思われるかもしれません。わたしが、暗譜で弾く演奏者を凄いと思ってしまうのは、お気に入りのフランスのピアニストたちが楽譜を見ながら弾くことが多いから。FBさんとか、ELSさんとか、ATさんとか・・・

 

ピアノはやはりベヒシュタインだった。エル=バシャさんが贔屓にするピアノメーカー。プログラム的にもやはりベヒシュタインが合うと思う。

それにしても、久し振りに来たけど武蔵野文化会館の小ホールの響きは最高だ。天井の高さが抜群の響きを作っているのだろうか。個人的には都内のホールでピカイチ。(王子ホールだと、もう少し天井が高ければとか、トッパンホールだともうすこし横幅が狭ければとか、思う。)

アムステルダムのムジクヘボウというホールには去年行ったけど、響きが良いとは言い難い。今日の武蔵野のホールのコンディションで、しかもベヒシュタインで、このプログラムを聴けることは幸せなことに違いない。エル=バシャさんも武蔵野の響きを気に入ってくれたかな?

 

ショパンはバッハの前奏曲を、ラフマニノフはショパンの前奏曲を、意識しながら作曲したのだろうけど、調が同じ曲を意識していたというより、前奏曲集全体を意識していたのではないか?ショパンが前奏曲を作曲したときはそうだったのかもしれない。ただ、もしかしたらラフマニノフは全体と言うより個々の調にも注目していたかも?

 

運命のいたずらというか、やりにくい部分もあるように思うのに、エル=バシャさんは何事もなかったように受け入れて、難なく集中力を保ち続ける。

たとえば、嬰ハ長調(変ニ長調)の最後に弾いたラフマニノフの13の前奏曲より第13番は、明らかにフィナーレである。しかし、今回のプログラムでは前半プログラムのド真ん中に位置してしまっている。ある意味、不自然だ。

その、感動的に盛り上げたラフマニノフの直後に弾いたのが次の調、嬰ハ短調のバッハの前奏曲。これが、スローテンポで、まるで二声のフーガのようなシンプルさで、いかにもバッハ的で、感動的なフィナーレのようだったラフマニノフの曲とは、笑いたくなるほどガラリと違う音楽。エル=バシャさんは、バッハの前に短く一呼吸を置いたものの、躊躇することなくサッとバッハの前奏曲に移った。なんともタフというか・・・

 

客席もかなり集中度が高いように思った。

きっとヨーロッパかどこかなら、このようなプログラムでも気軽にフラリと聴きに行くのかもしれないが、ここは公演数もクラオタ数も多い巨大都市東京。この特殊なプログラムに興味を持ったから来たという人が多かったのだろう。気合い入れて聴く人が多め。しかも音楽祭ラ・フォル・ジュルネ等でもお馴染みの実力派ピアニスト、エル=バシャさん。

ピアニストの集中力を邪魔しないように、特に前半は非常に静かな中で演奏が進んだ。(後半は少々ざわついた感じだった。)

なんというか、プログラムの独特さこそ今回の見所なのだろうけど、ラフマニノフやショパンの難曲では、演奏があまりにも見事で、マニアックなことを考えようとしていたのに、ついつい演奏そのものに聴き入ってしまうことも。

ラフマニノフといえばコンクールでもよく弾かれる作曲家で、主に若手が弾くイメージが未だにわたしの中にあるのだが、60歳のエル=バシャさんのラフマニノフは凄い。サラっと洗練されている。年を重ねた渋さという雰囲気ではないが、勢い溢れる若手のようというわけでもない。好みは分かれるだろうけど、わたしはエル=バシャさんの演奏は好き。

前半は多分わたしを含め、客席が緊張していた。いったいどんなものが始まるか、不安と期待を持ちながら聴いていた。

後半は幾分リラックスして聴いた。さらに感じるものがあった。

エル=バシャさんは前奏曲というのは即興的な要素があると言っている。確かに、演奏からそれを感じた。演奏は、真面目ながらも、テンポが比較的自由な部分もあった。バッハの前奏曲であっても、自然な感情に任せていた。まだ終わりたくないのか、多少もたつかせてみたり。早く次に行きたいのか、若干スピードを上げてみたり。正統な演奏ではあるが、いつもの演奏をいつもの通り弾くというより、常に新鮮さを感じられるように気を配りながら弾いている。

ピアニストも客席も神経を集中させてはいたが、ピリピリした嫌な感じの神経ではなかった。病的な神経の使い方ではなく、平和で健全な感じというか・・・

エル=バシャさんは上の動画で確か3人の作曲家の前奏曲を弾いてみて、結局のところバッハが実は最も「現代的」だと思ったとか言っていた。わたしは、わたしの言葉で少し似たようなことを言うと、バッハが一番「クリエイティブ」だと思う。前奏曲という一括りであっても、パターンの種類が幅広く、多様性に富んでいるように思った。「現代的」と言えば、わたしはバッハのフーガにこそ現代的なものを感じる。複雑さや奇抜さなど。

残念なことにわたしは普段、あまり調性を意識して聴いたり弾いたりしていない。(一時期、ロ短調に夢中になったことはあったけど。) でも、自分が好きなバッハのホ短調前奏曲(第1巻10番前奏曲)の次にショパンのホ短調(24の前奏曲第4番・・・ ♪シー シシー ドーシーで始まるアレ)を聴いたとき、妙にしっくり来て、それとこれは同じ調だったのかと。いい発見だった。ホ短調いいねぇ。

失敗したのは、わたしはバッハはすべて第1巻からだと思っていたので、平均律クラヴィア第1巻の前奏曲を少し予習していたのに、実際の演奏は第1巻の前奏曲だけでなく、一部、第2巻の前奏曲も入っていました。わたし、実は第2巻は全然知らない・・・

 

(続く)


Abdel Rahman El Bacha "Etude en Fa mineur " de Chopin | Archive INA

 

 

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