フランスのバロック作曲家マラン・マレの映画を楽しむ方法

長い間、わたしの好きなフランスのバロック作曲家はラモーだった。

そして、次に興味を持ったのがマラン・マレ Marin Marais (1656 – 1728) だった。


La Rêveuse: Les folies d'Espagne de Marin Marais (extrait par Jordi Savall)

なんという凄まじいハイレベルなコントロール能力・・・ 

わたしはまだまったく詳しくはないのだが、マラン・マレ作曲の曲に見られるグイグイ感のある曲想に惹かれている。

それからヴィオラ・ダ・ガンバという楽器。マラン・マレの出身国フランスでは「ヴィオール」と呼ばれている。時代と共に消えていった楽器の1つ。

「ガンバ」はイタリア語で「脚」という意味。(サッカーチーム「ガンバ大阪」もイタリア語の脚という言葉から名づけられた。)「ヴィオラ・ダ・ガンバ」は「脚のヴィオラ」であり、両脚で挟んで楽器を支える。上の動画だと分かりにくいので下の動画をご覧いただきたい。


Master class: Jordi Savall - The Juilliard School: Marais, Suite for three viols No. 2 in G Major

チェロのように見えるかもしれないが、楽器の先にピンはなく、脚で挟んでいる以外は宙に浮いている状態。チェロとは弦の数も違うし、弓の形や持ち方も違う。

美術館の絵画の中でこの楽器を観たことがあるという人もいるだろう。

マレという作曲家を知ってしばらく経った頃、あるトークコンサートで珍しい曲を聴く機会があった。1度知ったら絶対に忘れられない世にも奇妙な名前の曲である。

マラン・マレ作曲 曲名:膀胱結石手術図

ええ、本当にこれが曲名なのだ。

マレ自身が膀胱結石を患い、手術を受けたときの体験をもとに、音楽にナレーションを付けた作品である。非常にドラマチックで腹がよじれて苦しく、笑いが止まら・・・

おっと失礼。

悲劇的なお話でございました。

わたしが聴いたときは演奏者が自ら訳した日本語を役者の様に朗々と読み上げた。抱腹絶倒、見事なアンコールだった。

 

マラン・マレについて調べてみると、彼と彼の師匠サント=コロンブが出てくるフランス映画があるという情報に行き着く。さっそくその映画を観てみようと思うだろう。しかし、日本語字幕のDVDが中古で1万円以上もするという。はっきり言って高い。さてどうすれば良いのか。

映画「めぐり逢う朝」フランス1991年(DVD日本語字幕→高い!)
アラン・コルノー監督 パスカル・キニャール原作

(画像をクリック)

英語字幕やフランス語字幕のDVDなら安く入手できるが、リージョンコードが限定されている。

そこで、一か八かフランス語字幕のDVDをアマゾンUKで購入してみた。フランスのDVDなら過去にも自分のパソコンで再生したことがあり、パソコンなら問題なく再生できるだろうと考えた。

そして、図書館で映画の原作本の日本語訳を借りて、一通り読んでからDVDを観ることにした。

「めぐり逢う朝」(映画の原作本)
書籍(画像をクリック)

ほぼ原作どおりの映画なので、まったく問題なく楽しめた。めでたし、めでたし。

 

フランスのバロック作曲家マラン・マレの映画を楽しむ方法

DVD(フランス語字幕 パソコンで再生) + 原作本(日本語訳)

 

マラン・マレも謎の部分がある人物だが、映画のもう1人の主人公 サント=コロンブ Monsieur de Sainte-Colombe は何から何まで謎の人物としか言いようがない。マレの師であるサント=コロンブも、作曲家でヴィオラ・ダ・ガンバ奏者だったのだが、そもそも「サント=コロンブ」という名前もニックネームに過ぎない。生年や没年どころか、本名さえわかっていない。

そんなサント=コロンブの曲がコンサートのプログラムに入っていたことが1度だけあった。ヴィオラ奏者のニルス・メンケマイヤーの東京でのリサイタルだった。名前さえよくわからないような作曲家なのに、楽譜はちゃんと遺されていて、いま現在でも演奏されているというのは、不思議なことだ。300年以上前の名も知らぬ人が作った音楽を我々が聴くことができるなんて。

映画の原作は作者の想像をもとに書かれたストーリー。妻に先立たれたサント=コロンブは幼い娘2人と暮らしている。悪い男ではないが愛情を表現できなかったり、時に感情を抑えきれずに怒りを爆発させたり、関係を構築しにくいタイプの人間として描かれている。

何とも言えない場面がある。

父と上の娘がヴィオラ・ダ・ガンバの練習をしていると、下の娘がヤキモチを焼いて「わたしもやりたい」と駄々をこね始めた。父は楽器製作者に小さい楽器を発注した。小さめにしつらえた楽器を持ってきた父に、小さな娘は感激して涙しながら抱きついたのだけど、どうしていいか分からない父は黙って娘をそっと撫でるだけ。

娘2人の歌声二重唱も美しい。

映画内のヴィオラ・ダ・ガンバの演奏は上の2つの動画で紹介したスペインの名手ジョルディ・サヴァールによる演奏。

マラン・マレ作品ではないが、ジョルディ・サヴァール氏は来月11月22日に東京の浜離宮朝日ホールで演奏予定。

浜離宮朝日ホール|コンサート情報|ジョルディ・サヴァール&エスぺリオンXXIスペイン黄金世紀の舞曲 フォリアとカナリオ~旧世界と新世界~

スペイン音楽のプログラム。チケットを買う(チケットぴあ) icon

 

こんな場面もあった。

あるとき、怒り狂ったサント=コロンブは若き弟子マレの大事なヴィオラ・ダ・ガンバを叩き壊してしまった。ショックのあまり言葉も出せないマレを見て、我に返ったサント=コロンブはありったけの金を握ってマレに無言で突き出す。

後年のマラン・マレを演じたのはフランス映画ではお馴染みのジェラール・ドパルデュー。彼はトリュフォー監督の「隣の女」にも出ていた。美しい若い時代のマラン・マレを演じたのはドパルデューの息子ギヨーム・ドパルデューだった。

この息子ギヨーム・ドパルデューについて調べてみたら、悲しい人生を知ってしまった。

「めぐり逢う朝」はギヨームのデビュー作だった。その後、彼はバイク事故で入院したときに院内感染に巻き込まれる。何度も手術とリハビリを受けたが2003年には右足を切断しなければいけなくなった。義足でも、精力的に映画俳優として活動していたが、2008年に肺炎で突然亡くなった。まだ37歳だった。映画一家にとって自慢の前向きな息子だっただろうに。父ドパルデューは、悲しすぎてこの映画をもう一度観ることはできないのかもしれない、などと思ってしまった。

 

作曲家のマラン・マレ、師で作曲家のサント=コロンブ、それからヴィオラ・ダ・ガンバという楽器に興味を持った皆さんが、何らかの形でこの映画を観ることができますように。リージョンコードの違うDVDを購入する際は、再生できない可能性も考えて慎重に決断しましょう。

 

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