2019年4月11日 イゴール・レヴィット ピアノリサイタル

2015年夏、わたしはオーストリアのシューベルティアーデという音楽祭で彼の演奏を聴くことになっていた。わざわざ演奏予定のベートーヴェンのピアノソナタの楽譜(3番と17番)を買って鑑賞の予習に励んでいた。そして「初鑑賞で即効惚れ込む」というシナリオまで想定していた。(←おい!笑)

残念なことに彼は流行り風邪か何かでそのリサイタルをキャンセルしたのだった。

それから数年、ようやく彼の演奏を初体験する機会が来た。

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東京・春・音楽祭 2019

2019年4月11日

東京文化会館小ホール

イゴール・レヴィット(ピアノ)

J. S. バッハ

ゴルトベルク変奏曲 BWV988

楽譜を買って予習したかったのだが、少々忙しくて断念。いや、本当のところは、アリアと第1変奏だけダウンロードしてみたのだが、アリアは最初の数小節を弾いただけで諦めた。情けないがわたしには無理だった。

わたしは曲をよくわかっていないので立派な感想は書けない。典型的なクラオタ達と同じようにグレン・グールドの演奏による同曲のCDを聴いたことはあるが、わたしが最もよく再生しているゴルトベルク変奏曲は実はグールドではなくニコラ・アンゲリッシュの演奏CDだったりする。

今日、演奏が始まる直前に、大事なことに気がついた。

わたし、初めて生演奏でゴルトベルク変奏曲を聴くんだ・・・

そうだよね?初めてよね?

意外や意外。ライブ主義の音楽好きのスズキ。クラシック音楽鑑賞12年目にして、この曲は今日が初生鑑賞だったのか。

いくつか気に入っている変奏があるのに、それが何番目の変奏なのか、悲しいことに自分では把握できていない。わたしが好きな変奏は短調のものばかり。その部分をイゴール・レヴィットまさかと思うほどピタリとわたしのツボにはまる音で表現してくれた。いやーまいったなぁ・・・

1987年ロシアのニジニ・ノヴゴロド生まれ。子ども時代に家族とともにドイツに移住。

以前はイゴールさん(と呼んでもいいかしら?)のツイッターをフォローしていたのだが、最近はインスタグラムをフォローしている。

2015年に存在を知ってからずっと気になるピアニストだった。イゴールさんはキレイごとを言う人ではない。良い子ぶったりしない。偽善者ではない。作り笑いや営業スマイルをする人ではない。世の中をよく見ていて、深く考え込んで、言葉を選んで発言する。知り合いでも何でもないけど人間的に信用できる。

確実に精神年齢の高い人。うつむいた感じで深刻そうな表情で出てきたことは、真面目だが豊かな表現がちりばめられた演奏中はすっかり忘れていた。名残惜しそうに大切に最後のアリアの音を鳴らして舞台裏に帰るときは、演奏するときとは違う、来たときと同じ雰囲気で去っていった。(幸いなことに、最後の音から、ピアニストが立ち上がるまでは静寂が続いた。)

客席が明るくなってからも拍手は止まず、舞台に戻ってきたイゴールさんは感謝の気持ちを示すしぐさと表情を見せた。

ゴルトベルク変奏曲の初生鑑賞がイゴール・レヴィットの演奏で良かった。

そうそう、上野の東京文化会館小ホールはまだブログ内で取り上げていないが、気に入っているホールの一つ。石材が使われているのでヨーロッパの教会のような響きを感じる(とわたしは思う)。また、都内の多くの小ホールのようなシューズボックス型(長方形)ではなく、扇形なので、どの席に座っても演奏者との距離が近いように感じる。さらに、両サイドの席は値段設定が安いのに視界も音響も最高に良い(とわたしは思う)。

客入りは9割強かな?おもしろいことに魔法にかかったように一瞬で寝てしまう客も。不眠に悩む人のために作曲された曲ではあるが、わたしはますます脳が覚醒されて絶対に眠れない。バッハの音楽は現代音楽かと思うような奇抜さ、ロマン派音楽かと思うような感情的な部分、さらには夢に出てきそうなショッキングな音があって、かなり刺激的なのだ。そういうバッハ的な特徴は、この曲でも感じる。しかも、こうして生演奏で聴くとより鮮明に感じてしまう。今日もきっとまた眠れない。。

イゴールさんはいつも深刻な雰囲気なのだが、インスタグラムの発言からはユーモアや皮肉も感じる。近年は髭のある姿になってシャープな印象のお顔になったと思ったら、10年ぐらいかけて肉体改造していたらしい。かなりスリムに変身。むかしとは髪の状態が変化してしまったことを嘆いていたことも。(今の方がステキですよ!) 著名人の言葉の引用や世界情勢のことなど、わたしにはその意図がよくわからない投稿もあるけどね・・・

そして、先日、ハノーファーの音楽大学の教授に就任することが発表された。おめでとうございます!

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新作CDにも興味深い曲目が並んでいる。シューマン晩年の「精霊の主題による変奏曲」やワーグナー/リストの「聖杯への厳かな行進曲」など。悲劇的な死を遂げた大親友を想って作成したCDとのこと。

(画像クリック→Amazon)

わたしは今日は演奏後のCDサイン会には並ばなかった。わたしはイゴールさんのような人と意見を交わせる人間になりたかった。社会や音楽のことを深くとことん突き詰めて語れる関係。自分がバカすぎて悲しい。それに自分の周辺にはイゴールさんのような人はいない。(というか、いてもきっと相手にされない。。)


Igor Levit - Life Album (Official Trailer)

 

忙しいので先週末の「さまよえるオランダ人」と今週末の「グレの歌」の感想は書きません。書かなくてもわかるでしょ? 芸術に感動すればするほど日常に絶望するだけ。

 

(週末より静かになった上野公園)

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