ピアニストや歌手によるレッスンを見学!公開マスタークラスの楽しみ

クラシック音楽はむずかしいですか?

むずかしいから敬遠されていると思っている人々も多いことでしょう。そう思っている音楽家や音楽関係者は、とにかく「かんたんで楽しいからコンサートに来てください!」とアピールするのです。

でもね、スズキは思うのです。何にもわからなくてOKな単純で簡単なものに夢中になってくれる人なんていない。

一つ一つ紐を解いていけば、何か見えてくる。

芸術も、学問も、社会も、人間の心も、何もかもそうではありませんか。

わたしはもっともっともっとクラシック音楽について知りたいのです。

教えてくれる人々の存在はとてもありがたい。

マスタークラスというのは、プロの演奏家によるレッスンです。受講生はほとんどプロを目指す若者(音大生など)です。公開マスタークラスでは、一般聴衆も聴講生としてレッスンを見学できます。

ただ耳に心地良いと感じるだけでは満足できない、好奇心旺盛な音楽ファンを心底楽しませてくれる魅力的なイベントです。

演奏活動で忙しいはずの演奏家たちが、わざわざ時間をとって、わざわざ公開で、曲の深部に迫っていく解説をしてくれるのです。もっとみんなにクラシック音楽について知って欲しいと願う彼らの情熱は尊敬に値します。

世界各地でこのような素晴らしいイベントが開催されています。大いに利用しようではありませんか!

 

 

公開マスタークラスの思い出

ブラレイ先生

わたしの好きなピアニスト第一号のフランク・ブラレイによるレッスンを見学しました。刺激的でした。ピアノの指導なのに、人生のアドバイスとしても応用できそうな指導でした。

ブラレイさんがほとんど弾かないショパンがレッスン曲でした。「自分はあまり弾かないけど」と言いながらブラレイさんが弾いた部分があまりにも柔らかい音色で、美しすぎて、驚いて、ひっくり返りそうになってしまった・・・ 

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シュトロッセ先生

ラ・フォル・ジュルネ音楽祭の常連ピアニスト、エマニュエル・シュトロッセのレッスンも洗練されていました。このときの受講生は年上の女性でした。シュトロッセさんは彼女をマダムと呼んで、優しく丁寧に接していました。ますますフランス贔屓になってしまいます。

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こちらはわたしが唯一持っているシュトロッセさんのCDです。シャブリエ(Emmanuel Chabrier, 1841年 - 1894年)というフランスの作曲家の作品です。いい曲ですよ。けっこう気に入っています。 

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ルヴィエ先生

音楽祭ではなく、別のところで開催されていたマスタークラスを見つけて喜び勇んで見学を申し込んだのです。2012年だったと思います。旧スズキブログでは非公開の記事を書いたのですが、アーカイブ保存せずに削除してしまったようです。

ジャック・ルヴィエ先生は長い間パリの国立高等音楽院で指導してきました。その後、ベルリンでも教えています。 

なぜルヴィエ先生のレッスンを聴講したかったのかというと、彼はブラレイさんの師だからです。ルヴィエ先生の門下生たちは世界的に活躍しているピアニストが多いです。エレーヌ・グリモー、アルカーディ・ヴォロドス、ダヴィド・カドゥシュ、ダヴィド・フレイ・・・ 日本出身の横山幸雄さん、萩原麻未さんもです。

ルヴィエ先生の弟子たちは統一感がないというか(笑)わたしがそう感じているだけなのかしら? それぞれ我が道を行くというタイプのように思います。

そんなルヴィエ先生の日本でのマスタークラスは至って真面目で正統なレッスンでした。2日間のマスタークラス、1日で5~6人ぐらい、1時間ずつ教えていたと思います。わたしが見学したのは4人分だったはず。ただ聴いているだけなのに、内容が充実しているので疲れてしまいました。指導する人はわたしの何倍も疲労しているはずなのに、ルヴィエ先生はお元気そうで・・・先生方のタフさは凄い。

ルヴィエ先生は台湾の音楽ライター焦さんのインタビュー本にも登場しています。

 

通訳の藤本さん

以上、フランス人ピアニスト3名の公開レッスンはそれぞれ違う年に行われたのですが、対応した通訳者は同じでした。フランス語通訳の藤本優子さんです。

語学好きの人間はどうしてもレッスンそのものだけでなく、言葉の方にも興味を持ってしまうのです。そして、わたしは藤本さんの通訳のファンです。

ピアニスト先生の言葉を即座に簡潔で適切な日本語に置き換えるその能力は素晴らしい。レッスンが最高のテンポ&リズムで進んでいくのは通訳のお陰でもあります。

ブラレイ先生のレッスンのときに、藤本さん自身がおっしゃっていたのですが、彼女もちょうどブラレイさんがパリの国立高等音楽院の学生だった頃に同じ学校でピアノを学ぶ学生だったとのこと。なるほど。フランスのピアニストによるピアノレッスンの通訳として、最適なご経験をお持ちなのですね。

藤本さんと言えば、ピアノの女王アルゲリッチの姿を綴った本の翻訳者でもあります。

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海外の演奏家による公開レッスンの通訳ですが、講師役の演奏家の教え子が担当する場合もあります。先生の教えを十分熟知しているので安心な部分もありますが、頭で理解していても、即座に適切な日本語で表現するのは、慣れていないと難しいので、うまくいかない場合もあります。

また、講師役の演奏家が張り切って喋り続けてしまい、通訳が入るタイミングを失ってしまうこともあります。その長い話をメモするのに追われてしまったり、忘れないように頭に記憶したり・・・

通訳者もその楽器の学習経験者であることが望ましいです。おそらくほとんどのマスタークラスで、ピアノならピアノ、ヴァイオリンならヴァイオリンの経験者が通訳しているのだと思います。でも、必ずしも楽器の学習経験がある通訳者を確保できるとは限りません。一方で、学習経験があれば通訳ができるかというと、必ずしもそうではないのです。むずかしいですね・・・

 

ペレス先生

スペインのピアニスト、ルイス・フェルナンド・ペレスです。あの伝説的なアルベニス「イベリア組曲」の演奏の翌日にマスタークラスがありました。これも非常に印象的なマスタークラスの思い出です。

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マスタークラスで指導するのはピアノだけではありません。あらゆる楽器、歌、指揮、弦楽四重奏やピアノ三重奏などの室内楽のマスタークラスがあります。わたしは歌曲のマスタークラスにも行ったことがあります。

 

リーガー先生

ヴォルフラム・リーガーは、歌曲のピアノ伴奏者として第一線で活躍しているピアニストの一人です。歌曲マスタークラスを見学したときに書いた旧スズキブログの「手紙」を読み直したら、自分で自分の文章に感動してしまった(笑) あの頃の自分はイイ子だったなぁ。もう腐ってしまったのであの頃には戻れない。。

今回、この公開マスタークラスに関する記事を書くにあたり、旧ブログのアーカイブを参考にしながら、すべて書き下ろすつもりでしたが、予定を変更してリーガー先生の記事だけでなく、他の記事も旧ブログのものをほとんどそのまま、それぞれ再掲することにしました。このリーガーさんへの「手紙」は、もう書き直せません。そのまま残します。

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ピアノは他にエル=バシャ、アンヌ・ケフェレック、歌曲はテノール歌手のマーク・パドモア、チェロはジャン=ギアン・ケラスによる公開マスタークラスを見学したことがあります。

パドモアさんのドイツ歌曲の指導も印象に残っています。イギリス人のパドモアさんにとっても、ドイツ語は外国語です。受講生は日本人です。

ある生徒はまだドイツ語の発音が上手く出来ていなくて、「あなたのドイツ語は何となくドイツ語のように聴こえるけど、まだドイツ語になっていない」と言われていました。

別の生徒は「あなたのドイツ語はよくできている。よくできているからこそ、この単語の発音が少し間違っているので目立ってしまう。もったいない」と言われていました。

リーガーさんのときも思いましたし、あとで紹介するディースカウさんの動画でもそうですが、歌曲のマスタークラスは、音楽ファンとして非常によく勉強になります。内容の理解も深まります。そして、歌曲の中でいかに言葉が大切かということが分かります。歌曲のマスタークラスは超超超オススメです。

 

たとえ音楽の中身にそれほど興味はないとしても、マスタークラスの見学はオススメです。何しろ、憧れの演奏家が、いつも無言で演奏している演奏家が、喋っているところをずっと見続けることができるのです!声を聴けるのです!姿を眺めていられるのです!幸せな気分になれます!(そうして少しずつ音楽の中身に興味を持つようになってくれるといいなあ!)

 

公開マスタークラスの動画

たいへんオススメのレッスン動画があります!

伝説のバリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925年~2012年)によるマスタークラスです。

2003年当時、すでに第一線の歌手としては引退していたディースカウさんですが、指導しながら力強い大きな声で歌いまくっています。うう!カッコイイ!!

受講生の演奏→指導→受講生によるリサイタル→次の受講生の演奏→指導・・・(続く)という流れになっています。

全編ドイツ語ですが気にしないで楽しんでくださいね。


Meister-Singer mit Dietrich Fischer-Dieskau (2003)

 

現役の偉大なピアニスト、アンドラーシュ・シフによる公開マスタークラスの映像も多く出ています。彼は演奏活動も盛んだし、各地の音楽祭にも出ているし、何時間もレッスンしている時間など無さそうなのに、どうなっているのだろうか。

この最初のシューベルトの即興曲Op.90-2はわたしも遊び程度に弾いたことがある曲です。受講生の演奏直後、シフさんはこの曲の特異なところを受講生に尋ねます。

わたしも、あ、何か、あったはず・・・何だっけ?つまりアレです。

あんなに見事な演奏をした受講生も正確な答えを返すことはできませんでした。

つまり、特異な点はこういうことです。

この曲は長調で始まって短調で終わるのです。

一般的な曲なら長調→短調→長調あるいは短調→長調→短調で終わります。短調で始まって長調で終わる曲もけっこうあります。

でも、この曲は明るく始まって暗く終わるのです。しかもドン底に暗く終わるのです!

ヴァーグナー的に言えば、救済がないのです。

ああ、シューベルトさん好き!

脱線しましたが、最初にそんな質問を投げかけるシフさんも好きです。そして、シフさんは、長調で始まって短調で終わる珍しい曲の例を挙げます。メンデルスゾーンのイタリア交響曲だそうです。(わたしは知らない。。) シフさんは交響曲でもオペラでも室内楽曲でも(つまりピアノ曲以外の曲)よくご存知であり、何でもパっと弾けます。さすがです。天才です。ピアノ演奏のプロやピアノを教える人は、それぐらい幅広い知識を持っていて欲しいものです。(ええ、世の中にはピアノしか知らないピアノ弾きという方もいらっしゃいますから・・・)


Sir András Schiff Piano Masterclass at the RCM: Martin James Bartlett

 

公開マスタークラスの情報(日本)

音楽祭で・・・

ラ・フォル・ジュルネの公開マスタークラスは、コンサートチケットを持っている人々向けのイベントの1つ。無料だが、参加希望者が多い場合は入室できない可能性も。

事前(1時間前だったかな?)に整理券を配布しているので、まず整理券をもらう。どこかで休憩する。そして整理券を持って再び並び、早めに入室して前方の席を確保する。

ああ、参加希望者が多過ぎて争奪戦になったら困るので、良い子の皆さんはもうこのマスタークラスのことは忘れてね(笑)。

国内外の音楽祭で音大生向けアカデミーが同時開催されるときに、レッスンの一部が公開で行われることがある。国内なら、例えば草津温泉(群馬県)の音楽祭や霧島(鹿児島県)の音楽祭で公開マスタークラスがある。通常、一般の人が公開マスタークラスを見学する場合は有料。

 

その他・・・

一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)でもピアニストによるレッスンを公開している。

音大でも来日演奏家による特別レッスンを公開で開催することがある。

来日演奏家のマスタークラスの情報はホールのWebサイトに掲載されることもある。東京・首都圏のコンサートホール一覧はこちらをどうぞ。

 

さあ!アナタもどんどんクラシック音楽の世界にのめり込んで行きましょう!

 

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