オペラ初鑑賞の思い出 スズキ20歳イギリス時代

20歳のスズキはイギリス南部のとある町で勉強していた。

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(寮の部屋からの眺め)

 

例の三流大学の全員が参加する「留学」だったが、わたしはあれを「留学」とは認めていない。一緒に勉強する学生は同じ大学から来た日本人たちだけなので、長期の修学旅行のような雰囲気だった。わたしを含む学費給付生はこの留学費用も大学から提供されていた。つまり、無料で1年近くもイギリスで暮らしたのだ。

どう考えても無意味なニセ留学だったのだが、あの1年を自分独自のアイデアで上手く活用できなかったことが悔やまれる。選択肢の少ない貧乏生まれとは言え、今の自分なら自分に必要な情報を集めて最適な判断ができたのに。若くて世間知らずだったわたしはただ絶望していた。

 

暗い話はそれぐらいにしておこう。

そして、スズキの緑のリュックの話をしよう。

 

そのとき、スズキはまだクラシック音楽の世界を知らなかった。自称ピアノ好きでクラシック音楽好きだったが、10人ぐらいしか作曲家の名前を知らなかった。無料コンサートぐらいしか行ったことがなかった。

 

「クラシック音楽が好きなんだって?! 友だち数人とオペラに行くんだけど、よかったら来る?」と誘われて、スズキは自信満々に「イエース!」と応じた。

 

誘ってくれたのはスウェーデン人のクリスティーナ(仮名)。

三流大学のイギリス校舎と寮はイギリスの国立大学の敷地内にあった。我々の寮は基本的に日本人オンリーだったが、1棟に1人だけ国立大学の学生(イギリス人または留学生)が入居していた。寮に住む日本人と「英会話の時間」を設けることを条件に、部屋と食事を無償で提供するというシステムだった。クリスティーナはわたしの棟に住む唯一の外国人だった。

 

チケットは各自事前に買った。みんな二番目に安いチケットを選んでいたのだが、ケチなわたしは一人だけ一番安いチケットを買った。

オペラの前にみんなで軽く食事をすることになった。

待ち合わせたレストランで、スズキはちょっと「ヤバイ」と思った。

 

集まったメンバー(自分を入れて5~6人だったと記憶している)は、自分以外みんなドレスアップしていたのだ!

 

スズキは普段着だった。しかも背中には超アメリカンなバッグパック(リュック)を背負っていた。アメリカの高校で交換留学生だったとき、日本から持っていった1000円均一のリュックが即効ダメになってしまったので、セールで安くなっていた丈夫なリュックを買った。今はどうなのか知らないが、その頃はこれがアメリカの高校生の定番の1つだった。

デザインは少し違うが、まさにこの色。JanSportの濃い緑だった。このバックパックは本当に丈夫だったので大学時代も大活躍だった。

うーん、こんなバッグでオペラに行ったとは・・・(笑)

 

クリスティーナ以外は初対面だったが、全員その国立大学の学生だった。日本人とほとんど接する機会のない人々だったので、わたしを珍しがってくれた。(同じ敷地内に大量の日本人学生がいたのだが。)

和やかに食事が終わり、そろそろ劇場に移動することになったとき、メンバーの一人である男子学生が笑顔でわたしに近付いてきた。「入れていい?」と言って、手持ちで持ち込んで飲み残したワインボトルをわたしのバッグパックに(笑)

 

おお!スズキのグリーンのリュックが役に立った!!

持ってきて良かったぁ♪

 

ドレスアップした人々は誰も大きめのバッグなど持っていない。スズキだけがギリギリでボトルが入るサイズのバッグを持っていたのだ。

こうしてわたしは、普段着のまま、ワインボトルが入ったリュックを背負って、堂々とオペラが上演される劇場に入った。

(書いている今が一番恥ずかしいわ・・・)

 

いまはヨーロッパの劇場はセキュリティ上の問題もあってハンドバッグ以外の荷物は席には持ち込めないところが多い。当時はそうでもなかったのだろう。わたしは自分がリュックをカウンターで預けたかどうかは覚えていない。

預けたのかな? 預けたにしても、足元に置いていたとしても、微妙だな。大きいガラス瓶が入っているリュックを預ける人もあまりいないし(不審物として怪しまれただろう)、そんな邪魔なものを足元に置くのも周囲に迷惑だろうし。

 

町にはオペラ専用の劇場はなかった。ミュージカルなど様々なイベントが催される劇場があったので、おそらくそこでオペラが上演されたのだろう。

 

わたしが購入した一番安い席は1000円から2000円前後だったように思う。たまたま同行のメンバーたちはドレスアップしていたが、すべてのお客さんがドレスアップだったというわけではなかったように記憶している。席では気まずい雰囲気を感じることはなかった。それでも、さすがにあのアウトドアにも使えそうなバックパックで来る人はいなかっただろう。気まずい思いをしなかったのは自分が鈍感だったからなのかもしれない。

 

鑑賞した作品はプッチーニの名作オペラ「ラ・ボエーム」だった。

 

わたしはオペラがどういうものなのか、何も分かっていなかった。ミュージカルやミュージカル映画のようなものと思っていたのかもしれない。

そんなアホな・・・と思われるかもしれないが、実はオペラとミュージカルを混同する一般人は一定数いる。オペラの「アイーダ」を観にいったことを話すと、「自分も観たことあるよ!劇団四季で!」と言う人がいる。

ちなみにオペラの「アイーダ」と劇団四季のミュージカルの「アイーダ」は同じストーリーがベースになっているが音楽は全然違う。作曲家が違うし、共通の曲は無い。それから、オペラはイタリア語で日本語の字幕付き、ミュージカルは日本で鑑賞するなら基本的に日本語で上演される。また、オペラでは基本的にマイクやスピーカーは使わないがミュージカルでは使う。多くのミュージカルは子どもでも楽しめるように作られている。

 

とにかく、こうしてわたしはイギリスにいたときに、人生で初めてオペラを鑑賞した。

 

初めてオペラを鑑賞したスズキは大感動して泣いてしまった!!

 

 

 

 

 

 

というのはウソです。。。

 

 

何も準備していなかったスズキはまったくストーリーを追うことができず、最初から最後まで眠くて仕方なかった。

 

当時のスズキは上演言語のイタリア語など分かるわけない。字幕があったかどうかも覚えていないが、あったとしても英語。当時の自分の英文を読むスピードでは、間に合わなかっただろう。何とか読めたとしても、オペラの場合は、字幕を読むだけでストーリーを理解するのは難しい。特に人生経験が浅くて教養の低い20歳だったスズキにとっては難しい。

 

「ラ・ボエーム」は若者たちの日常を描いた比較的わかりやすいストーリーなのだが、青春を謳歌していなかったスズキにとっては馴染みがない。大きい声では言えないのだが、今でも実はあまり興味を持てない作品なのだ。(ああ、オペラファンの皆さん、スズキを責めないでぇぇ・・・ ゴメンなさい。)

 

世界中で大人気のオペラ作品の一つである「ラ・ボエーム」のストーリーを簡単に説明しよう。

詩人の男はお針子の女と出会い恋に落ちる。お金はないが気が合う芸術家仲間たちと楽しい青春を送る。しかし、女は病で死んでしまう。おわり。

 

え?省略しすぎ? 詳細を知りたければこちらでどうぞ。

ja.wikipedia.org

 

スズキはどうしてももっと激しい作品あるいは精神世界に繋がる作品を好む。

 

スズキから見ると主役の詩人男ロドルフォがおもしろくない。

弱くてかわいらしい女性に一目惚れする典型的な男。愛する女の死が近づいているのに、何も出来ずにオロオロするだけの男。おもしろくない。

弱くてかわいらしいだけの女もおもしろくない。(女の名はミミ。わたしの初鑑賞の唯一の記憶は女の名前がミミだったといいうことだけ。とほほ。)

 

主役カップルより脇役カップルの2人のほうが魅力的でおもしろい。

特に女のほう、ムゼッタは結構気に入っているキャラクター。別れた相手を呼び戻したくて戦略的に演技をする。どこか皮肉も込めていて笑えるしカワイイ。

そして、コロっと、ついつい再びムゼッタに魅了されてしまう相手の男(画家のマルツェッロ)もおもしろい。すぐまた嫉妬するくせに、しばらくするとまた「オレの女は最高だぜ」と言う。

ミミが死の間際に寒くて凍えているときに温かいマフを持ってきて祈りを捧げたのはムゼッタだった。詩人男ロドルフォより女のムゼッタのほうがカッコイイとスズキは思う。

 

若者の日常の恋愛模様を描いた作品に心が動かないのは、わたしに青春時代がほとんど無かったせいなのかもしれない。

勉強や遊びやオシャレや恋愛に励む一般の学生を「ヒマでお気楽な人たち」とバカにしながら、卒業までも卒業後もスズキは毎日おカネの心配ばかりしていた。わたしには青春など無かった。

むかしもいまも、ほぼ完全に一人行動だし。(まあ、このオペラ鑑賞のときみたいに、年に3~4回ぐらいは誰かと遊びに行ったけど。滅多になかったからこそよく覚えている。)

 

この、自分にとってストーリーがおもしろくない「ラ・ボエーム」がわたしにとって初オペラ鑑賞だったのだが、皮肉なことに、クラシック音楽の魅力を知って夢中になってから最初に観たオペラ(人生で2度目に鑑賞したオペラ)も「ラ・ボエーム」だった。

その時は、そこそこ楽しんだが、オペラに夢中になるキッカケにはならなかった。しかも、さらにその後もう1度「ラ・ボエーム」を鑑賞することになった。

 

ストーリーは相変わらずおもしろくないが、プッチーニが作曲した「ラ・ボエーム」の音楽はいつ聴いても新鮮でキラキラ輝いていている。始まりの音楽や、第二幕クリスマスの最後なども素敵。そうなのだ。実は音楽だけは物凄く好き。


The Genius of La bohème (The Royal Opera)

第二幕の最後はこんな感じ↓


La Bohème: Act 2 finale

 

そんなわけなので、スズキさんのように、青春時代と呼べるものがない、ひねくれ者のアナタが初めてオペラを鑑賞するのなら、わたしは「ラ・ボエーム」はオススメしない。別の作品を選ぶと良い。

 

青春時代を謳歌した素直な性格のアナタには「ラ・ボエーム」が合っているのかもしれない。何よりストーリーがシンプルで分かりやすい。音楽は間違いなくスバラシイ。人気作品だから上演も多い。初オペラにいかがでしょう?楽しかったことを思い出して懐かしい気分になるのかも。

わたしにとってはつまらないキャラクターである「ミミ」は一般的な男性からみれば理想的なカワイイ女の子なのでしょう。一般的な女性にとっても「ミミ」は理想の女の子なのでしょう。「守ってもらえる」女の子を目指しているなら尚更。(つまらん!じつにつまらん!)

 

わたしが鑑賞前の予習の重要性を何度も繰り返すのは、自分の初鑑賞が残念な結果だったからだ。

 

クラシック音楽が好き

オペラに誘われる

ミュージカルを観るぐらいの感覚で行ってみる。

話についていけない。わからない。眠い。

おもしろくなかったので興味を持てない。もう行かない。

 

こんな人が世の中には多いのかもしれない。

オペラを制作している人や宣伝している人はどっぷりオペラの世界に浸っているので、その素晴らしさをよく知っている。とりあえず一度来てもらえれば、その凄さが伝わると思っている。

 

そんな考えは、甘い。

自分好みの作品を選ぶ(あるいは誰かに選んでもらう)ことと、ある程度の準備をすることが大事だとわたしは思う。

 

 

では、初めてのオペラと2回目のオペラで「ラ・ボエーム」を鑑賞して、それほどオペラにのめり込むに至らなかったスズキはその後どうしてオペラに夢中になったのか?

 

それについては、思い当たる出来事がある。それを別の記事で書く。

 

 

イギリスにいた20歳のスズキの話に戻ろう。

 

オペラ初体験が終わった後、ワインボトルの持ち主は、忘れずにきちんとわたしからワインボトルを受け取って帰っていった。

そこはオペラ専用劇場ではなかったし、オペラを観る機会はもうなかった。

一緒にオペラを観に行ったメンバーたちとの交流は続かなかった。

 

わたしの2回目のオペラ鑑賞は、それから10年ぐらい経ってからだった。

 

www.music-szk.com

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