スズキをオペラの世界に誘導したのは何だったのか

(↓こちらの記事の続き)
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それは怪しげなメッセージから始まった。

 

旧ブログにはアカウントを持っている人同士が直接メッセージをやりとりできる機能があったが、読者以外の人からメッセージをもらうことはほとんどない。あるとしても、アクセス数アップを狙った「読者登録のお願い」ぐらい。

差出人のアカウントは作ったばかりのもののようだった。つまり、プロフィールもブログもない。わたしとコンタクトを取るためにわざわざアカウントを作ったのだろうか。

 

見知らぬ人からいただいたメッセージは「いつもご贔屓いただきありがとうございます」という書き出しだった。??? アヤしいぞ。

一瞬怪しんだものの、すぐにスズキはニヤリとした。こんなラッキーなことがあるのかと。メッセージ内容は信用できるものだった。オペラを制作・上演している団体からの案内だった。ここではその団体を仮に「プロダクションX」と呼ぶことにしよう。

 

オペラの稽古を見学して感想をブログで書いてもらえないかという内容だった。

 

ちょうどSNSが流行り出した頃だった。プロダクションXは、オペラの宣伝の一環として、ツイッターやブログをやっている人々に稽古を見学してもらい、感想を投稿してもらうという取り組みを始めるところだった。ホームページで参加者を募集して抽選により選ばれた人々を招待するのだが、そこにスズキは特別枠で参加させてもらえることになった。表向きは「抽選で選ばれた一人」ということだ。

 

詳細は一部伏せておくが、そのとき稽古していたオペラ作品はこれだった。

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当時のスズキは「ご贔屓いただき」などと言われるような立場ではなかった。人生で2回目のオペラを鑑賞したのはその1年ぐらい前。まだ全然オペラに親しんでいなかった。

 

それでも予習の必要性をある程度認識するようになっていた。見学会に向けて図書館で対訳付きのCDを借りた。ギラギラした音楽とグロテスクな内容にすぐに夢中になった。たまたま作品が自分に合っていたのも大きい。「ラ・ボエーム」よりはるかに自分好みだった。

 

投稿のお礼にオペラ本番のチケットがもらえるのかなと思ったが、そんなに甘くなかった(笑) 自腹でチケットを買った。せっかく稽古を見学するのだから、本番も観たい。

 

本番ももちろん良い経験だったし、行って良かった。しかし、稽古の見学のほうが衝撃だった。

 

稽古場に足を踏み入れたら、すでに歌手たちはそれぞれ自由にウォーミングアップとして歌いまくっていた。歌声が空気をビンビン振動させていた。そこはオペラが上演される場所より小さい空間だった。充満する歌声と熱気に圧倒された。

 

スタッフも含め、その場にいる全員がプロ意識の高い人々だった。テキパキ効率良く進む稽古。限られた時間を最大限に生かす。目的を共有し各自が役割を果たす。(←これらすべて日本のビジネスマンが苦手なこと。)

演出家はドイツ人。稽古ではオーケストラの部分はピアニストが一人で演奏。

通訳やピアノというわたしが個人的に興味あるものが絡んでいたのもまた自分にとってインパクトがあったのだろう。

 

そのときの演出は極めて「アヴァンギャルド」(=「前衛的な」と訳される)なもので、わざわざ公演概要に注意書きが出るレベルだった。上品な(?)わたしの口からはとても言えない、あんな行為やこんな行為をイメージさせる演技が含まれていた。そのオペラは、もともとの内容からしてグロテスクなので「アヴァンギャルド」な演出がなされることも多い。いま思えば、人生で3回目のオペラ鑑賞としてはドギツイものだった。それでもわたしは抵抗なくオペラを受け入れた。

 

その後もプロダクションXから何度か同様のお誘いをいただき、わたしも可能な限り応じた。いろんなオペラを知った。毎回、見学会のあとは自腹でチケットを買って本番を鑑賞した。見学前に制作関係者が見学者へ向けて熱いトークをしてくれたこともあった。わたしはおもしろくない日常を送っていたので、オペラに情熱を注ぐ人々が眩しかった。

 

見学の感想はブログに自由に書くことができたが、プロダクションXが誤解を招く情報や表現がないかという点だけは確認していた。旧スズキブログは閉鎖してしまったので、その記事をお見せすることはできないが、スズキブログを確認したプロダクションXの関係者からスズキ流の独特なブログ記事に好意的なコメントをいただいたこともあって、スズキは嬉しかった。

 

プロダクションXは、いまはもう見学会をやっていない。「一定の成果があった」と、確かどこかで言っていたような気がする。

 

旧スズキブログのオペラ稽古見学の記事を読んで、実際にチケットを買って観に行ったという人がいたのだろうか?

うーん、いなかったと思う。みんなただ読み物として楽しんだだけなのでは? それでも数年後にふと思い出してオペラに行ってみたという人がいるといいなあと思うのだが。

 

1つだけ確実に言えることがある。

このオペラ稽古見学会は、わたしがオペラに目覚める時期を数年早めた。

 

その後、わたしは見学会の案内が来なくても東京で上演されるオペラを定期的にチェックするようになった。年に数回はオペラを観に行っている。ヨーロッパ旅をするときは必ず現地の歌劇場のスケジュールを調べて、都合が合うなら鑑賞している。

 

後述する「オペラが好きな理由」を思えば、わたしが人生のどこかの時点でオペラという楽しみを見つけるのは既に決定していたと言える。ただ、目覚める時期はもう少し後だったのかもしれない。突然おとずれた見学会という貴重な機会により、それが数年早まった。

 

 

ひょっとしたら、プロダクションXの本当のターゲットはスズキブログの読者ではなく、スズキ自身だったのでは?

 

だとしたら、ご覧の通り、その企みは大成功だった。

 

それにしても、どうやってプロダクションXは「スズキさん」を発見したのだろう。当時のわたしはクラシック音楽に目覚めてまだ3~4年ぐらい。どちらかというと「音楽は何でもかんでもスバラシイ」「何にもわからなくてもOK」「クラシック音楽はむずかしくない」というスタンスでブログを書いていた。(おっと!いまとは正反対ではないか!)

 

きっかけがあればオペラの世界を楽しんでくれる人だということに気付いてくれたのかしら?!

イイ子ぶったブログから、潜在的な何かを感じ取ってくれたの?! だから、オペラを知るきっかけを与えようとしてくれたの?!

 

だとしたら、感動してスズキ泣いちゃう(涙)

 

顔に書いてあったのかしら?

「あたしをオペラの世界に連れて行って!」とか?

えへへ! 見つかっちゃった(照)

 

人生なんかくだらない。

それでも、誰かから影響を受けること、そして誰かに影響を与えることは素晴らしいとスズキは思う。

 

何事も、広く不特定多数に向けて宣伝するより、ターゲットを見極めてアプローチするのがベストなのだろう。スズキもその方針でクラシック音楽の布教(普及)活動をするべきなのだが、ターゲットを探すのが面倒だから出来ない。

 

オペラの世界は少しかわいそうだ。ピアノからクラシック音楽に入った人にとって、オペラは最も遠い世界。オーケストラや室内楽なら好きなピアニストが出るからという理由で聴く機会がある。そのときにピアノ以外の演奏者や曲を知ることができる。オペラに辿り着くには、さらにあと数ステップを要する。

 

残念だな。オペラを作曲するのは大変だ。ピアノ曲で有名な作曲家の中には全身全霊でオペラを作曲した人もいるのに。オペラを作曲していない作曲家であっても、鑑賞者としてオペラを知っていて、その経験がピアノ曲の作曲にも反映されていたりするのに。ピアノ学習者はほとんどオペラを知らない。

 

オマケ

なんでオペラが好きなのか

 

オペラは社会の暗い部分を無視しない

クラシック音楽の世界では、美しい世界や癒しの世界ばかり求めようとする聴衆やそういう世界ばかり届けようとする演奏家がいる。そこにいるのはキラキラ輝く素敵なイイ人ばかり。もちろんそういうものにも需要があるのだから、それでいいのだが、それはわたしが求める音楽ではない。

オペラが描く世界は時に残酷だけど、社会の本当の姿が反映されている。偽善ではない。矛盾だらけの世の中。

 

オペラは大人の世界

クラシック音楽を聴き始めた頃は天才少年少女のピアノ演奏にも関心があったが、すぐに飽きてしまった。ピアノをはじめとする楽器の世界では、まだ人生も何もわからない幼い子どもや若者がわかっているふりをして演奏している。抜群のテクニックと感情をこめている風の顔の表情だけでお客さんを感動させられる。もちろんそれも一生懸命でかわいらしいのだが、わたしは次第に成熟した大人や何かを察して成熟に向かい始めた若者の演奏を求めるようになった。

その点、オペラの世界はホンモノの大人の世界と言える。オペラにおける恋愛模様はかなり濃い。10歳の天才ピアニストは上手にショパンの悲しげなピアノ曲を弾けるが、10歳の天才歌手に愛の苦しみを訴えるオペラのアリアは歌えない。(好きなゲーム機を取り上げられた悲しみの歌のように聴こえるのでは?)純粋な子ども達には、オペラによく出てくる悪役の歌も歌えないだろう。

 

役と同じ体験を持つ必要はないが、「わかったふり」ではなく、想像力を使って深く理解して歌わないと、浮ついてしまう。精神面が成熟してないと聴き手を感動させることはできない。スズキは精神的に大人な人をカッコイイと思う。だから、オペラ歌手はカッコイイ。惚れ惚れしてしまう。歌っていないときは、子どもみたいにふざけていてもいいのだ。世の中や人間の様々な面を知った上でそうしているのだから。

 

欧米で上演されるオペラでは映画のような恋愛シーンがみられる。日本ではさすがにそこは控え目な演技になっている。それでも、日本のオペラ歌手たちの歌いっぷりからは、ラテン的というか欧米的な雰囲気を感じる。日本のクラシック音楽界の中でもっとも日本人離れした人々だと思う。

 

オペラ歌手の経歴は様々だ。

高校卒業後ストレートにオペラ歌手を目指した人

別の楽器でキャリアをスタートしたがオペラ歌手に転向した人

音楽以外の仕事をしていたが目覚めて(あるいは一度は諦めたが諦めきれずに)オペラ歌手を目指した人

 

大人になってから自分がやるべきことを見出したという人が活躍しているというのもオペラ界の素敵なところなのだが、高校生ですでにオペラの世界を知っていて、その道を目指した人がいるというのも凄い。

同じ十代の友だちが漫画や映画やドラマを楽しんでいたときに彼らは既にオペラに夢中になっていたのだろうか? なんという早熟なお子様たち!

 

オペラは語学オタクを興奮させる

複数の言語に精通した語学オタクと比べると、わたしはすべて中途半端なレベルに留まっているのだが、語学に興味があるというだけでオタクと言っても良いのなら「語学オタク」を名乗れる・・・かな?

 

翻訳マシーンとして働くスズキは「すべての翻訳は意訳」だと思っている。訳は原文を理解するための補助にしかならない。翻訳者が10人いれば10通りの翻訳が出来上がる。だから、語学に興味関心がある人は、オペラに興味を持つようになったら、原語でオペラを楽しみたいと思うようになる。

そこからさらに言語学的な興味やその言語を取り巻く文化や歴史に対する興味が沸いてくる。どんどん世界が広がっていく。

わたしにとって外国語の学習はオペラのためだけでなく、歌曲を鑑賞するためでもある。旅行のときにも役に立つ。でも、そう滅多に旅行はできないのだから、旅行はモチベーションには繋がりにくい。オペラは日本でも鑑賞できるしCDやDVDでも楽しめる。オペラは英語以外の言語を学習するモチベーションになる。

ドイツ語、フランス語、イタリア語・・・すべて中途半端だが、それに加えて、去年はついにスラヴ系の言葉に手を出した。ロシア語とチェコ語だ。実はチェコ語のオペラは作品数が意外と多い。こうしてますます世界は広がる。

 

 

 

 

人生はくだらない。

それでも、誰かから影響を受けること、誰かに影響を与えることは素晴らしい。

影響を与えてくれた誰かのコピーではなく、自分オリジナルのものにしていけるとさらに素晴らしい。

わたしはオペラの稽古見学会に呼んでくれたプロダクションXにとても感謝している。こうしてプロダクションXはスズキという熱烈なオペラファンを獲得した。

 

オペラにしてもクラシック音楽にしても、すべての人間が興味を持ってくれるのではないことはよく分かっている。スズキブログが然るべき人に届きますように。

 

あなたのオペラ初鑑賞レポートはどのようになるのかしら?

 

ネットで調べ物をしていたときに見つけたスズキさんという何だか微妙な人のブログを読んで、ふとオペラに行こうと思った。行ってみたら・・・

 

さあ、どんな物語が始まるのかな。

 

 

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