2019年5月14日 シューマン歌曲リサイタル ユリアン・プレガルディエン & エリック・ル・サージュ

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ありがとう その1

テノール歌手のユリアンさん(同業の父親と区別するためにファーストネームで呼びたい)、ピアニストのル・サージュさんをシューマン歌曲プロジェクトに巻き込んでくれてありがとう!ドイツにも素晴らしいピアニストが沢山いるのに、歌曲伴奏スペシャリストもいるのに、ユリアンさんが、ソロや室内楽のピアノで活躍するフランス人のル・サージュさんを演奏パートナーに選んでくれて、わたしは嬉しくて仕方ない!

ありがとう その2

ピアニストのル・サージュさん、シューマンのピアノ独奏曲とピアノ室内楽曲をすべて録音してしまったアナタには、ぜひともシューマン歌曲に取り組んでいただきたかった!ユリアンさんのシューマン歌曲プロジェクトに参加してくれてありがとう!ル・サージュさんのピアノでシューマン歌曲を聴けるなんて夢みたいだ!

 

アーティスト2人が出会って、手を組んで、ケミストリー(化学反応)が生まれるというのは、まさにこういうことなのだろう。ユリアンは着実に成熟に向かっている30代半ばの若手。ル・サージュは50代半ばのベテラン。

ユリアンとル・サージュが長年の友人だったとは思わない。おそらく、ユリアンはこのプロジェクトのために、他の誰でもないル・サージュを選んで接触した。親子ほどの年の差と言うには少々大げさだけど、お兄ちゃんと呼ぶのも不自然な先輩ル・サージュに、思い切ってアプローチしたのだろう。

ル・サージュは、わたしの知る限り、身近にドイツ歌曲を歌う演奏仲間はいない。シューマン歌曲を弾くチャンスを、心から喜んで受け入れたのでは?あくまでわたしの想像だけど。

ル・サージュは、ドイツ人のテノール歌手とシューマン歌曲を演奏するという機会を得て、ますますシューマンの世界に深く入ってくことになり、ユリアンは徹底的にシューマンを弾き込んできたフランス人のピアニストから、これまで接してきた人々とは異なるシューマンへの想いを受け取り、新たな境地に至った。そうだといいなぁ。わたしはそうだったと考えたい。

そのような、個人と個人が影響し合う関係が羨ましくて仕方ない。 

 

ありがとう3

この2人を東京に呼んでくれた王子ホールに感謝。2人はこのプロジェクトに関連するリサイタルを主にヨーロッパで展開しているのだろう。結局のところ、日本では外国語の歌曲はなかなか受け入れてもらえない。一部の熱心なファンはいるが、やはり言葉の壁は大きい。器楽曲と比べると、歌曲リサイタルのチケットの売れ行きは鈍い。そのような状況でもこの演奏会を実現してくれた王子ホールに、「ありがとう」を伝えたい。

 

この3つの「ありがとう」は「奇跡」でもある。ユリアンさんを知ったのは2016年のラルス・フォークトやテツラフ兄妹たちの室内楽コンサート(トッパンホール)だった。そして、ル・サージュさんはわたしの好きな三大ピアニストの1人である。昨日、2人が同時にステージに登場した瞬間、わたしは不思議なものを見ているような感覚だった。別々に知った2人が一緒に現れるなんて。

 

2019年5月14日

王子ホール(東京・銀座)

ローベルト・シューマン

(詩:ハインリッヒ・ハイネ) 

リーダークライス 作品24

4つの夜曲 作品23(ピアノソロ)

詩人の恋 作品48

(途中でピアノソロのクライスレリアーナから「1.きわめて動的に」を演奏)

ユリアン・プレガルディエン(テノール)

エリック・ル・サージュ(ピアノ)

 

歌曲はスリリングで心臓に悪い(←大興奮で楽しいという意味)。どこまでが打ち合わせどおりなのか、どこからが想定外なのか、よくわからない・・・ 思いっ切り感情的に自由に歌うユリアン、余裕で合わせるル・サージュ(さすが、普段から超人(?)パユさんの相手しているだけある!笑) それでもどこかヒヤッとするスリル感。

どうしても素人スズキは「リーダークライス」より分かりやすい「詩人の恋」が好き。好きな曲だから贔屓目に感じ取っているせいかもしれないが、「詩人の恋」のほうが、よりクリアで洗練された演奏だったように思う。

でも、「リーダークライス」の船乗りに「待ってくれ」と呼びかける歌などは、おもしろかった。ユリアンは「もう、あの女なんか忘れてやる」と言わんばかり。離れていく岸を物凄い形相で、目を見開いて睨みつけけたのに、次の瞬間、目を伏せて軽く下を向いてしまった。ああ、かわいい。

「詩人の恋」でも、遠慮なくあらゆるテクニックを駆使してドラマチックに歌い上げるユリアン。わたしはついつい客席でニカっと笑ってしまう。「恨んでないさ♪」なんて、恨みまくりの歌いっぷりだった。

あの厳かな曲「聖なるライン川の流れ」も印象的だった。わたし(女)はテノールの音域はけっこう原音で歌えるのだが、さすがにこの曲は低すぎて無理。でも、この厳かな歌を1オクターブ上げて歌うのも納得いかない。厳かではなくなってしまう。これは男声にしか歌えない。でもユリアンのように、テノールの人にとっては、この曲はけっこう歌いにくいのだろう。やや苦しそうに低い音を出していた。

最後の曲も好きだ。皮肉たっぷり。大きな棺おけを用意せよという歌。滑稽なピアノの音が鳴る中、ユリアンは「フンっ」と強く息を吐いて気合を入れてから歌い始めた。

改めて、歌曲の世界好きだと思った。人生について深く考えた経験がある大人にしか表現できない精神世界だから。

ル・サージュさんのソロ、4つの夜曲も好きな曲。ル・サージュさんのソロリサイタルでは、彼は「幻想曲」ばかり弾くので、その他のシューマン作品といえば、まだアンコールでしか聴いていない。それなのに、今回はオールシューマン。魂を持っていかれそうな感じだ。オールシューマンは濃厚でキケンだ(笑) たくさん聴こえてくる音の中で、いくつかの強調された特別な音が、あんなに冴えた音で聴こえるのは生演奏ならでは。そのたびにドギっとしたりグサっと心に何か刺さったり・・・

シューマンは絶望とユーモアだ。どこまで本気で、どこまで冗談か、よくわからない。彼が「明日、飛び降りる」と言っても、嘘かもしれない。でも、本当かもしれない。絶望とユーモアはシューベルトにも感じるが、シューマンの場合はより大袈裟だ。明るい調べも、おそろしげに響いたり、ゆったりした優しい曲も、徐々に不吉なものが近づいているような気がしてしまう。

そんな濃厚な演奏をしているのに、ル・サージュさんはいつも通り、相変わらずだった。演奏後は、お馴染みの動作。メガネをはずして「ニコ!」それから「ぺこ」「ぺこ」。そして、飄々と去っていく・・・(素敵すぎる。)

 

予定通り、このシューマン歌曲のCDを買って2人からサインをいただいた。この日のプログラムと同じ2つの歌曲集が入っているのだと思っていたら、CDにも入っているのは「詩人の恋」だけで、あとは別の曲が収録されている。ざっと解説を読んだら、なかなか面白そうな選曲だった。

2016年、トッパンホールでユリアンの歌を聴く前に彼について調べていたら、ル・サージュとのシューマンプロジェクトが進行中という情報に行き着いた。この2人が?! なんという意外な組み合わせだろうと、そのCDを楽しみにしていたのに、いくら待っても続報は無かった。プロジェクトは中止になったのだろうと思っていた。

CDブックレット内に掲載されているユリアン自身による文章で背景を知った。もともとは2016年春に録音を予定していたが、その前に「詩人の恋」の新しいエディションの楽譜が出版されたので、録音を一旦中止して自身の解釈・演奏を深めることにしたという。こんな世の中だけど、ユリアンは、焦らずに、やるべきことに集中できる男なのだ。しっかりしているではないか。研究熱心な部分も良い。今後ますますユリアン・プレガルディエンに期待したい。

録音は2018年9月に行われた。

研究の結果としてユリアンは自分なりのアレンジも入れた。なるほど、リサイタルでも予習した別の歌手の歌い方と違う部分があった。

わたしがドイツ語の勉強で使っている北ドイツ放送局のクラシック音楽番組でも、今年2月にユリアンのインタビューがあった。簡単な部分しか理解できなくて悔しい。ベルリンで「魔笛」タミーノを歌う直前の収録だった。

オペラもいいのだが、それよりわたしはユリアンが歌うバッハのオラトリオやカンタータを生演奏で聴きたい。(国内または来日予定の古楽アンサンブルの皆さん!よろしく!)

 

この日、もう1つ特別なことがあった。

わたしの地元のピアノの先生が来ていた。先生はル・サージュさんの大ファンだ。数年前、わたしがル・サージュさんというピアニストを先生にお教えしたのだ。自分がオススメしたピアニストをこれほど気に入っていただけるというのは、とても嬉しい。先生にとっては初めてのル・サージュさんの生演奏。魅力あるテノール歌手の歌と共に、シューマンを堪能していた。良かった。良かった。

 

ユリアンさんはアンコールの曲名の前に作曲家(シューマン)の名前ではなく、詩人の名前を客席に伝えた。アンコールは2曲。締めの2曲目は「献呈」。

ああ、ドイツ語!

ああ、ドイツ歌曲!

せっかく届いたばかりのDVDでフランス語オペラの予習を開始したばかりだったのに、もうしばらくドイツ語の世界に浸りたくなってしまった。フランス語オペラは、しばらく放置することにしよう。

 

すばらしい時間が終わるとひどく落ち込む。わたしは最悪の社会に生きている。繰り返すが、ユリアンさんとル・サージュさんみたいな人間関係が羨ましい。彼らはまだ親友と呼べるような間柄ではなさそうだ。そこまでの関係にはならないかもしれない。それでも、これは良い出会いであり、良い経験として、これからずっとそれぞれの人生に影響を与え続ける。

一方、わたしは、こうして「すごかった!わーいわーい!」とバカ騒ぎするしか脳がない。ああ、人生なんかくだらないなぁ。

そうだ、わたしも誰かさんみたいにライン川に身投げでも!

グーテ・イデェー!!

どこまで本気か冗談かわからないわたしの話もシューマンに免じて許してくれ。

 

1819年生まれのクララさん、200歳おめでとう!! ユリアンたちのCDにはシューマンの愛する妻クララさんが作曲した曲も入っているのだ!

 


SCHUMANN Dichterliebe // Julian Prégardien, Eric Le Sage, Sandrine Piau [TEASER]


SCHUMANN Dichterliebe // Julian Prégardien, Eric Le Sage, Sandrine Piau

 

CDブックレットには録音時の写真などもあって、読み応え・見応えある(まだ聴いていないけど、もちろんきっと聴き応えも)。でも、アマゾンでは音声ダウンロードのみ販売らしい? 昨日のリサイタルで買って良かった。

 

 

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