鑑賞メモ2020年|指揮者ダニエル・ハーディングによるベートーヴェン交響曲第6番「田園」の仮説が興味深い

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結局のところ、わたしはライブ演奏ばかり追いかける人間らしい。

今年こそCDを沢山聴いて音楽鑑賞の幅を広げようと、毎年のように思うのに、未だに実行できていない。

こうしてコンサートに通わない日々が続いても、鑑賞するのは過去10年ぐらいのライブ演奏の動画が中心となっている。

無料期間の後に有料会員になったベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のデジタルコンサートホールで鑑賞したベートーヴェンの交響曲第6番「田園」に関して、インタビュー動画で指揮者のダニエル・ハーディングが語っていたことが興味深いので紹介したい。(インタビュー動画は無料で視聴可)

公演日:2020年9月13日

www.digitalconcerthall.com

以下は音楽素人スズキによる理解である。わたしはこの作品について詳しくはない。誤解もあるかもしれないが、ご了承いただきたい。

 

耳の不調など様々な問題を抱えてはいるが、自然の中でベートーヴェンは心身共に癒されていた。そんな作曲家の姿や想いを感じながら聴く壮大で美しい音楽というのが交響曲「田園」の一般的なイメージだと思う。

ダニエル・ハーディングは、この作品のそのような素晴らしさを少しも否定はしない。それでも以下のような興味深い仮説を立てている。

  • 終楽章の最後のミュート(弱音器)を付けたホルンの意味
    →「さっきの旋律、わたしの耳にはこう聴こえるんだよ」というベートーヴェンの訴え
  • ミュートを付けたホルンの直後のオケ全体のフォルティッシモの意味
    →難聴に対するベートーヴェンのフラストレーション
  • 第2楽章の最後の管楽器が奏でる鳥の鳴き声の真似
    →ただの鳴き声ではなく、先に出てきた旋律が断片的に少しずつ聴こえる。これも「さっきのあの部分、わたしの耳にはこう聴こえる」というベートーヴェンの訴えなのでは?

わたしは曲をデジタルコンサートホールで聴いてからこのインタビューを視聴した。こんな仮説を知ってしまったので、もう1度曲を聴きたくなってしまった。普段は1回しか聴かないのだが、もう1度聴いてみた。

ミュートを付けたホルンの音は、それでもけっこうよく聴こえた。ふつうの音より少し小さい程度。でも、その直後のフォルティッシモは、なるほど、やり場のない怒りやフラストレーションを一瞬だけぶつけたように感じて少し笑いたくなった。

本当にベートーヴェンが、この偉大な素晴らしい曲の最後に、曲を締め括る大事な最後の部分に、そんな本音を挿入したのだとしたら、そのいじらしさというか、人間らしさというか、ベートーヴェンさんのそういう部分に改めて惚れてしまう。皮肉バンザイ!いいね!いいね!いいね!

第2楽章の全体をよく把握していないので、鳥の真似のところに旋律が断片的に聴こえてくるかどうかというのは、わたしには分からなかった。

ダニエル・ハーディングの仮説を知ったわたしの個人的な解釈はこうだ。音楽はネガティブな感情を払拭するための道具ではない。音楽を聴いたら必ず元気にポジティブにならなければいけないということはない。元気になったなら、それはそれで良い。でもネガティブな感情を解消できなかったとしても、「自分なんかダメなんだ」と絶望する必要はない。「ほら、不安を抱えたベートーヴェンが自然に癒されて前向きな曲を作曲したんだから、アナタも頑張ろうよ」と言って人を無理やり前に押すのはやめたほうがいい。ひょっとしたら、ベートーヴェンは内面の苦悩を訴えるメッセージを曲に密かに挿入していたかもしれないのだから。ネガティブな感情を力づくで押し殺すのは良くない。

 

「田園」は、アルバン・ベルク作曲の「弦楽オーケストラのための抒情組曲から3つの楽章」と一緒に演奏された。どちらも作曲家の極めてプライベートな面をさらけ出した作品であるとハーディングは言っていた。コロナ禍で音楽界が抱える先の見えない状況を、無理やりポジティブに変化させようとするのではなく、もどかしさや納得できない想いがあっても当然であるということを伝えたい・・・そんなメッセージなのかなと、わたしは勝手に思った。

 

ところで、インタビューの冒頭でわたしは戸惑った。

「ターディス」って何だ?!そんな英単語は知らないぞ。調べてみたらイギリスのBBCで何十年も放送されているテレビドラマに登場するタイムマシーンのことだった。

エール・フランスのパイロット???

ダニエル・ハーディングは日本でも活躍しているので、皆さんよくご存じなのだろう。わたしも少しは知っているつもりだったのだが、こんな重大なプロフィールを知らなかったとは。彼はパイロットでもある。2020年は指揮活動を離れてエール・フランスのパイロットとして勤務する予定だったのだが、コロナ禍で延期となっているそうだ。

趣味でプライベートとして飛行機を操縦しているセレブは多いのだろうけど(私が知る限りバリトン歌手のミヒャエル・ナジも飛行機乗り)、航空会社のパイロットになるとは驚いた。ハーディングはかなり若いうちから第一線で活躍してきた指揮者なのだが、航空会社で旅客機?のパイロットを操縦できるレベルの免許を取得する暇などあったのだろうか。なんという人生だろうか。

 

それにしても、中途半端な知識をベースにしたスズキの妄想とは違って、専門的な音楽知識を持ち、よく楽譜を読み込んで、作曲家や社会について調べ上げた、経験豊かなプロの音楽家の仮説には、鋭い視点を感じる。このような仮説をインタビューで提供してくれるとは有り難い。

 

ちなみにベルリンフィルの「田園」演奏は管楽器ソロが活躍するのでソロを担当する奏者たちのファンにとっては見所が沢山。弦楽器が奏でるベルクの曲も美しい。

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