ピアノとスズキのドラマチックな10年・・・思い切ってピアノを買った人の10年後の真実

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まずは、ピアノの見事な脚線美をご覧いただく。

チッペンデール様式、つまり猫足である。

このピアノは2010年10月初旬にスズキ御殿(?)にやってきた。

今秋、同居して10年が経過。11年目に入った。

以下はピアノとスズキのビタースイートな関係を綴った物語である。

 

事件簿1:予定日に搬入できなかったピアノ

わたしのクラシック音楽元年は2008年だった。それ以降、今に至るまでクラシック音楽がわたしの人生の中心である。

ほどなく、これはやはり本物のピアノを買わなければならないと悟った。当時、数年前に買った5万円の安物電子ピアノを持っていたのだが、子供時代にアコースティックのピアノを弾いていた人間としては満足できない品質だった。さらに、その時に住んでいた安アパートは狭すぎて演奏スペースもなかった。(ベッドの端に分厚い本を重ねて、そこに座って弾いていた 笑)

永遠に経済的に不安定な身としては思い切った決断だった。ピアノ設置・演奏可能なマンションに引っ越した。引越費用で激減した貯金が少し回復した半年後、予定通りピアノを購入した。

当時は趣味ブログの最盛期だった。スズキは某Aブログで音楽記事を書いていた。今のスズキブログは極めて不人気なので信じてもらえないかもしれないが、当時はスズキの「ついにピアノ到着!」記事を今か今かと待っているブログ仲間たちがいた。

ところが、ピアノはその日には届かなかった(泣)

わたしはブログ仲間たちに悲しみの報告をすることになった。

正確に言うと、ピアノは家の前まで来てくれたのに、この部屋に運べなかったのだ。サイズオーバーでエレベーターに乗せられず、階段は狭くて運び込むのは不可能。後日クレーンで窓から入れることになった。

スズキは、平謝りする販売担当者をついつい睨んでしまった。だって、「大丈夫ですかね?」と購入時に心配になって訊ねたのに、「大丈夫!大丈夫!」と、建物を見ていないのに断言したのは彼だったからだ。

でも、そのお陰で(?)クレーン代金を免除してもらったのだった(笑)

数日後にピアノは無事スズキの家に来た。キルト地でグルグル巻きにされた上、吊るされて窓から搬入されるピアノのストレスを思うと、横で見守りながら不安な気分になってしまった。ピアノさん?大丈夫かい?

何しろ狭い家なので、ピアノの存在感は大きい。毎日仕事から帰ってくると、ピアノがそこに「居る」という感覚だった。

中古も検討したが、最終的に選んだのは新品。ウン十万円。今後も経済的に不安定なのだろうから、ピアノ購入は、自分の人生で最初で最後の大きな買い物だ。

 

事件簿2:たった3年で壊れたピアノ

オーストリアの旅から戻った2013年9月だったと思う。

細かい状況は覚えていないが、ピアノを弾いていたらピキっと何かが小さな音を立てた。その瞬間、ダンパーペダルが効かなくなってしまった。 なんで・・・!?!?(涙)

毎年秋に調律をお願いしていたのだが、少し早いけど調律師を呼んで見てもらうことにした。

調律師は、ピアノの中身を確認して、そこから1メートル以上の細長い金属の棒と、数センチの細い棒を取り出した。

長い棒に付いている細い突起が折れてしまったらしい。替えの棒を取り寄せなければならない。数か月かかるとか。

その日のうちに解決すると思っていたわたしは激しいショックを受けた。

人生最大の買い物だったのに、たった3年でもう壊れてしまったなんて。それも前代未聞の壊れ方で。

何が原因だったのだろう。

3か月後、新しい棒を取り付けに来てくれた調律師に原因についてしつこく聞いてみたのだが、「分からない」とのこと。原因が分かれば今後注意すればいいのだが、原因が分からないのでは、どうしようもない。

「3年ごとに壊れる設計なのですか?!」と意地悪なことを言ってみたのだが、幸いその後はこのような事故は起きていない。

 

 

事件簿3:ドとレとミとファと・・・音が出なくなったピアノ

ピアノは湿気に弱い。これまでも毎年夏に1つか2つ音が出なくなる事象が発生していた。仕方ないことだと諦めて、そのまま弾いていた。秋の調律の頃には音が出ないという問題は解消されていた。

ところが、今年の夏は酷かった。7月中旬に同時に複数の音が出なくなってしまった。ドとレとミとファと・・・まるで「クラリネットの歌」みたいに次々と出なくなってしまった。

うぉぉぉおぉ!ピアノォー!!!!

死ぬなぁー!!!!

コロナのせいで最愛のヨーロッパ旅がこの世から消えてしまった今、オマエまでスズキを裏切るのかぁーー!?!?

スズキが助けてやるから。

ガンバレよ。

耐えてくれ、ピアノ・・・

原因は分かっている。たぶん湿気だ。

急いで乾燥剤と室内用の除湿機とやらを買ってみたのだが、全然効果ないではないか・・・(涙)

どうしよう。このままだとピアノが死んじゃうよ。

生まれて初めて湿度計(温度計付き)を買ってみた。除湿機にはどんどん水が溜まっているのに、湿度はほんの少ししか減らない。

 

ところが、意外と状況はあっさり改善されたのだった。

もう暑くてダメだ。ついにエアコンを使う。エアコンの冷房機能を使った途端、湿度計の数値は一気に20ぐらい減って、ピアノは再び音が出るようになった。エアコンが室内の湿気をしっかり吸い込んでくれたのだった。

なぜ7月半ばまでエアコン利用を我慢していたのか?

うーん。ええとね。入居10年になる部屋のエアコンは、そろそろ寿命なのではと心配して、今年はギリギリまで使わない方針にしたのだった。これまではエアコンが壊れたとしても、家にいるのは夜と週末のみ。週末も出かけることが多いので、それほど困らない。でも、コロナ禍で在宅勤務が継続する中、真夏に突然エアコンが壊れたらどうしようということが心配になってしまったので、ギリギリまで使わないようにしていた。そんなことしても壊れるときは壊れるのだから、あまり意味がないのに。

壊れる前に交換してもらえないか、管理会社に相談するべきなのだが面倒だ。「壊れたら交換」が前提なのだろうから。それに、実はエアコンの真下にピアノがあるので、いざエアコン交換ということになったら、ピアノを移動させなければならない。安全に移動してくれる業者の手配もしなければならない。面倒である。(エアコンの暖風のピアノへの影響が気になるので、冬場はエアコンではなく床暖房とオイルヒーターを利用)

そんなわけで、わたし自身はギリギリまで暑さに耐えることが出来たのだが、先にピアノのほうが限界に来てしまったのだった。ゴメンよ、ピアノ。

幸い、この夏はエアコンも壊れることなく無事乗り越えることができた。

 

これまでの10年

10年前というと、わたしの興味の範囲が広がりつつある時期でもあった。

ピアノ購入から数か月後に「サロメ」を観て、わたしのオペラ鑑賞が本格化した。室内楽から歌曲まで手を伸ばし、毎年のようにヨーロッパに通うことが生き甲斐だった。ピアノに関して言えば、わたしの憧れ・参考にしたいピアニストはヨーロッパのピアニストばかりとなった。

結果として、普通のピアノ好きのピアノ弾きブロガーたちとは話題が合わなくなっていった。

ピアノ弾きの定番の話題と言えば、「脱力」「小指を鍛える」「本番で緊張しないために」「コロコロ」(←モーツァルトの曲などで粒を揃えて弾くこと)などなのだが、そういったことにわたしはあまり関心がない。

みんな、コツコツ努力すれば少しずつ上手くなっていくということを信じて練習している。でも、わたしは「誰でも上手くなる」ということは信じていない。練習によって上手くなるのは才能がある人のみというのがわたしの見解である。その辺も視点が違う。わたしにはまったく才能がないので、上手くなる可能性はゼロである。(本当のこと言って何が悪い。)

それでも、わたしは各地に社会人のピアノ弾き仲間がいることが嬉しかった。典型的な日本の会社員は仕事と家庭の往復で手一杯。せっかく暇があっても飲み会やネットゲーム、スマホやテレビで時間をつぶす。だから、ピアノ弾き仲間の存在は新鮮だったし、誇りに思っていた。たとえピアノを弾く目的が違っていても。

わたしがYouTubeに演奏動画を載せているのは、ピアノ弾きブロガーたちの影響だった。でも、その後、ピアノ弾きブロガーたちはもうブログを書かず、演奏の録画もしていないようだ。みんな元気かな。今もピアノを弾いているのだろうか。そうだといいなぁ。

そんなわけで、ピアノ弾きたちとは話題が合わないのだが、一方でコンサート通いの人々とも、レコードマニアの人々とも、わたしはズレた感覚で音楽鑑賞をしている。前記事でも若干皮肉を入れてしまったが、プロの音楽家と我々一般人との間にも溝がある。だから、結局のところ、わたしはクラシック音楽好きの人とさえ、滅多に話が合わない。それがはっきりしてきたのがこの10年のこと。

ピアノを買って10年。

自分の世界を広げて深めて前を向いて進んできた結果、誰とも話が合わないという事態に陥ってしまった。ははは。笑うしかない。

芸術文化に浸れば浸るほど世間から浮いてしまうとは、社会に芸術文化が浸透していない証拠だな。いや、そうではなく、わたしの視点があまりにも変人・変態すぎるのだろうか。いや、それとも逆に、わたしがあまりにも無難でつまらない方向に進んでいるせいなのだろうか。

わたしにとってピアノとは?

はっきり断言するが、別にピアノなんか愛してないから。この10年、わたしを最大限ワクワクさせてくれたのは、ピアノではなくヨーロッパ旅だった。ヨーロッパ旅の方が力強くわたしを知らない世界に連れて行ってくれた。知的な刺激を与えてくれた。

それと比べると、ピアノの存在価値は小さい。わたしの能力が低いので弾きこなせていないせいでもあるが、がんばればレベルアップできるという説はウソなので、どうしようもない。

わたしにとってピアノとは? それは、あまり遊んでいないのに取り上げると大泣きする子供のオモチャみたいなものだ。

ヨーロッパ旅の方が好きなんでしょ?

ピアノ弾いているとき、全然楽しそうじゃないよね。

それなら、ピアノ捨てようね。誰かにあげちゃおうね。

そう言われると「イヤだぁー イヤだぁー 絶対イヤー!!」と、この世の終わりのように泣き叫ぶ子供と同じことをしてしまいそうだ。

 

これからの10年

前述の通り、在宅勤務にも関連して、10年も住んだマンションの室内の各設備の状態が懸念材料である。そうでなくても、さすがに長く住んだのでそろそろ気分転換に引っ越したいとも思っている。

それなのに、10年経ってもピアノ可の物件はあまり増えていないように思う。ペット可の物件はそこらじゅうにあるのに、楽器演奏可の物件は少ない。つまり、ピアノのせいで引っ越しが困難である。

人から聞いた話ではあるが、賃貸マンションを建てる人は、取り壊しを前提に建てるので、簡易な構造を選ぶらしい。そのほうが取り壊し費用が安く済む。そのせいで、建物内の居室の物音は聴こえやすいし、欧米と比べると寒すぎる日本の住宅事情の原因にもなっていると思われる。

ピアノは重いので簡易な構造の建物には設置できない。設置できたとしても、演奏OKというルールが定められていないと、安心して演奏することはできない。演奏OKというルールがあっても、ストレス発散に攻撃対象を見つけて攻撃してくる人もいるかもしれない。ただでさえ狭い東京の部屋をさらに細かく小分けして防音ボックスを設置するのも気が進まない。そういう意味では、安心して演奏できる今の建物に住み続ける方が良いのかもしれない。

引っ越すのか、引っ越さないのかという問題は、これからの10年の課題の1つだろう。

 

コロナ禍で電子ピアノなど楽器の売り上げが好調だという記事を読んだことがある。どこかで新たにピアノ演奏が趣味の人が発生したのだろう。

ようこそ、ピアノの世界へ。

皆さんの先輩のスズキだよ。

調子はどう?

ピアノと甘い関係を築くつもりかもしれないけど、それはどうだろう? ふふふ。もう気付いているかもしれないけど、音楽があふれる薔薇色の未来を描くのはやめたほうがいい。世の中はそれほど甘くない。

 

来年もヨーロッパには行けないのかもしれない。

ヨーロッパに行けない中、ピアノと一緒にこれから新たな10年を過ごすのかと思うと、退屈して死にそうだ。

それでもなお、ピアノを処分したいとは全然思わない。

すれ違いながらも、捨てられない、重い、面倒な、役に立たないピアノと・・・

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