鑑賞メモ2020年|シュニトケ作曲「レクイエム」ヴェネツィアのフェニーチェ劇場の公演

この作品について面白い情報を入手したので、鑑賞前に読んでもらえるとうれしいなぁ!!

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2020年11月15日にイタリアのフェニーチェ劇場で無観客で演奏されたアルフレート・シュニトケ作曲の「レクイエム」がYouTubeで公開されている。

シュニトケは1934年にロシアのヴォルガ・ドイツ人自治区に生まれて1998年にドイツのハンブルクで没した。ソ連で活動したドイツ・ユダヤ系の作曲家である。

この「レクイエム」は1975年の作品。モスクワで活動していたと思われる。

ん?

んんん?

違和感があるよね?!

当時のソ連で「レクイエム」の作曲・演奏など可能だったのか?

「レクイエム」はカトリック教会のミサで歌われる鎮魂歌。「レクイエム」の作曲者は、一部例外はあるが、ほとんどはカトリックの作曲家である。ウィキによるとシュニトケはカトリックに改宗しているので、彼が「レクイエム」を作曲したいと考えたことには違和感はない。

一方で、1975年当時のソ連は統制が厳しかったはずで、当局が推奨する音楽以外はなかなか自由に演奏できなかったのでは? 特に「レクイエム」のような大規模な作品は、その影響も大きいので、監視が厳しかったと思われる。

しかも、演奏にはエレキギターやドラムセットなど、思いっきり西の新しい音楽が使われている。

となると、ひょっとすると、シュニトケは秘密裏に作曲して、そのまま公演することなく楽譜を隠し持っていたのでは・・・?!

 

こうして、頭の中でスズキミステリーが出来上がっていったのだが、そうではなかったのだ!!

 

調べてみると意外な情報を発見した。

シュニトケの「レクイエム」はモスクワで上演された芝居の付随音楽として作曲されたものだった!

それはドイツの文豪シラーの戯曲「ドン・カルロス」のための音楽だった!

普通に「レクイエム」を作曲して教会やコンサートホールで演奏することは不可能だったかもしれないが、 劇の中の音楽として「レクイエム」を作曲してしまうとは!

シラーの「ドン・カルロス」はヴェルディ作曲のオペラ「ドン・カルロ」で我々オペラファンにとっては身近である。

「ドン・カルロ」には様々な見所があるのだが、そういえば宗教もテーマの1つだった。旧教国スペインに抑圧されるポーザ侯爵ロドリーゴたちのフランドルは新教の地。

レクイエム的な音楽が流れるとすれば、第2幕の最初のカール五世の葬送の部分だろう。でも、シュニトケ作曲の「レクイエム」は演奏時間40分近い。ということは、劇中に少しずつ演奏されたのだろうか?

戯曲の長さは知らないが、ヴェルディオペラが3時間から4時間(版によって異なる)なのだから、戯曲もそれなりに長いのだろう。でも、そのうち40分も音楽のために時間を取る・・・ということは?

大文豪シラーさんには申し訳ないが、どう考えても音楽目当てでモスクワの劇場に来場した人々がいたと思われる。

文豪の古典劇を観に来たように見せかけて、シュニトケ作曲の前衛的な音楽を堪能するために来た人々がいたのでは?!?!

(落ち着けスズキ!)

これから、このフェニーチェ劇場の「レクイエム」を鑑賞するなら、ぜひとも次のような視点で鑑賞してみよう!

1975年当時、「ドン・カルロス」の芝居を観に来たソ連のモスクワの人々は、音楽のどの部分で興奮したのだろう?!

普段モスクワでは聞けない新しい音楽である。どこでニヤリとしたのだろう?!ドキドキしてしまったのだろう?!

政府当局が推奨する音楽ではない音楽を聴く誇らしさと、もし攻撃対象になってしまったらどうしようという恐怖感。

ウィキペディアによると、シュニトケは1950年代の「雪解け」の頃に青春時代を過ごしたため、西の現代音楽や実験的な前衛音楽の影響を受けており、作風にも反映されていたので、ソ連当局の批判攻撃対象になりがちだったという。

それでも、シュニトケはこんな作品を作曲した。そして、その作品をお蔵入りさせるわけではなく、演奏する機会を見つけていた。そこに感動する!

 


Alfred Schnittke - Requiem (Coro e strumentisti del Teatro La Fenice)

 

手前に歌手陣がいて、透明のプラスチック版の向こうに器楽奏者たちがいる。

楽器は打楽器の他にピアノ、オルガン、チェレスタ、金管楽器などがある。前述の通り、エレキギターやドラムもあるという摩訶不思議なレクイエム。

人間の声とかぶる弦楽器や木管楽器が入っていない分、人の声と楽器の音がくっきり分かれて聴こえる・・・とわたしは感じた。

合唱団が歌っているというより、個々が歌っているという感じがするのは、ソーシャルディスタンスな配置のせいなのかもしれないが、カッコ良くてわたしは好きだ。ぐわんと響く不協和音もイイ感じ。

楽器が目立つ部分が何か所かあるのだが、それ以外の大部分では楽器は必要最小限のミニマル形式と言える。だから合唱とソロをたっぷり堪能できる。

いろいろ余計な情報を記述してしまったかもしれないが、そんな情報抜きでも、レクイエムとして聴き応えがある大作なのでオススメしたい。

数時間もかかるオペラやオラトリオと比べると、40分というほどよい長さなので気軽に鑑賞できる。

お楽しみください!

 

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