鑑賞メモ2020年|ヴィクトル・ウルマン作曲 オペラ『アトランティスの皇帝』(OperaVisionで公開中)

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知らないモノを知りたいという探求心が強いと、どんどん世間からかけ離れた人間になっていく。宇宙人のように。

そしてまた記事がどんどん長くなって人々はこのブログ記事を読み続けることを断念する。いつものパターンだ。

 

宇宙人スズキが新たに鑑賞したのはヴィクトル・ウルマン作曲のオペラ『アトランティスの皇帝』である。

よく分からない部分もあるのだが、分かった部分に関しては面白かったのでご紹介する。

まず作曲家のヴィクトル・ウルマン(1898年-1944年)だが、言うまでもなく知る人ぞ知る作曲家。いや、たぶんほとんど知られていない。

でも、わたしにとっては、詳しくはないが一応知っている名前。

というのも、憧れのピアニストの1人ヘルベルト・シュフがウルマン作曲のピアノ協奏曲をCDに録音している。

さらには、今年に入ってから別のドイツのピアニストが同じくウルマンのピアノ協奏曲に加えてピアノソロ曲を録音している。そのCDをダウンロードして聴いたことについては、非公開化した過去のブログ記事にも書いたのだが、誰も読んでいないだろう。宇宙人スズキの興味範囲は世間から見たらヘンテコなのだから。

ウルマンはチェコスロヴァキアに生まれた。両親はユダヤ系。ウルマンは、テレジン強制収容所に入れられて、アウシュヴィッツに送られて亡くなった。

このオペラの演奏時間は1時間弱。強制収容所で生まれて、現存する唯一のオペラ作品という。ただし、リハーサルまで行われたのだが、収容所での本番上演は実現しなかったそうだ。

公開中の演奏は今年10月に録画された。

ドイツのデュッセルドルフとデュースブルクで活動するライン・ドイツオペラの制作。終戦75周年記念の意味もあるのだろう。

(↓字幕をONにしよう!)


DER KAISER VON ATLANTIS Ullmann – Deutsche Oper am Rhein

operavision.eu

では、内容の説明と鑑賞メモを自分の分かった範囲で箇条書きする。内容については上記リンクのOperaVisionサイトを参考にした。

  • 独裁者(アトランティスの皇帝)があまりにもやりたい放題でヒドイので、ついに死神が役目をボイコットしたという物語(笑!皮肉バンザイ)

  • 「死神さん」がカッコイイ
    - 疲れ切った死神は、やる気も失せてボロボロの服で登場した。馬に乗った騎士たちが命懸けで死を巡って戦っていた昔を懐かしむ死神氏。彼は、ついに一人ストライキを決行!新しいガウンをまとって、ウィスキーを片手にボウルに入ったスナックをつまむ。その優雅なお姿に惚れ惚れ。
    - 処刑を実行したのに人が死なないと言ってイラつく独裁者(皇帝)を遠くから眺めて愉快そうにニヤリと酒を楽しむ死神さんがカッコイイ。
    - 殺せない、死ねない・・と苦しむ登場人物たちに「死は苦痛から人を救済する」と自分の仕事を誇らしげに語る死神さんがカッコイイ!ブラヴォー!(わたしからも拍手を届けたい!パチパチパチ!)

  • 死神と一緒に登場した相棒はハルレキン。
    - イタリア語ならアルレッキーノでフランス語ならアルルカン。イタリア喜劇の定番の道化キャラである。ドイツ語オペラなのでここでは「ハルレキン」。
    - この作品では「死」に対する「生」を意味するキャラ。性質は違うが死神と二人三脚で人々の人生をコントロールしてきたらしい。ところが、悪政のせいで人々が喜びの中で生きて死んでいくことが難しくなってしまったので、死神と同様にハルレキンも落ち込んでいた。
    - 最初はボイコットを決行した死神に唖然としていたが、ハルレキンも死神に続いたらしい。その後は真新しいカラフルな衣装で再登場。

  • 解説によると死神は作曲者ウルマンを、ハルレキンは台本作者のペトル・キエン Petre Kien を表すという。真面目であまり笑わないウルマンと想像力豊かで協力的だが世間知らずなキエンというのが収容所の仲間たちによる評。

  • アーティストで詩人だったペトル・キエンはこのオペラの制作時(1943年~1944年)はまだ24-5歳ぐらい。ウィキペディアによるとテレジン収容所からアウシュヴィッツに移送された直後に病死。(OperaVisionサイトでは「殺された」になっている。)

  • 忘れてた。主役(?)のアトランティスの皇帝は蜘蛛の巣みたいな紐が絡まった宮殿に住んでいる黄金の顔色の男。
    - 皇帝は宮殿にこもって何年も人に会っていない。彼が「外務担当」と呼んでいる部下は外国との接点ではなく、宮殿にこもる皇帝と外の世界との接点なのだろう。「外務担当」の役名がラウドスピーカー Loudspeaker(拡声器)ということでいいのよね?たぶん。
    - 物語の終盤、仕事を再開するための条件として死神が出したのは「皇帝に最初に死んでもらう」ということ・・・と解説にある。でも、動画を観ている(字幕を読んでいる)限りでは、そのへんはよく分からない・・・ 皇帝はバタっと倒れたが、しばらくしてから起き上がったし。。。

  • この演出では皇帝の部下たち(ラウドスピーカー?を含む3人、ドラマーも?)はロボットという設定。音楽に合わせてカチコチ動くのが面白い。
    - ロボットというとチェコの作家カレル・チャペックの戯曲「ロボット」を思い出す。チャペックはユダヤ人ではないが、ヒトラーとナチズムを強く非難した。チャペックの作品の皮肉さと、このオペラの皮肉さは似ていると思う。(このページの下に関連情報あり)

  • 音楽的には、無調っぽくなる(アルバン・ベルクみたいな?)部分も若干あったが、一方でポップス的なジャズ的な音楽も多用されているので親しみもある。通常のオペラとは違う音楽の取り扱い。特にピアノの扱いが違う。つまり、ほどほどに取っつき易く、ちょっぴり取っつきにくい。いいバランスだと思う。
    演奏開始はとっても親しみ易いので安心して鑑賞しよう。
    - まず、冒頭で少し調子のずれたラッパが鳴る。まるでヴェリズモ・オペラ「パリアッチ」(←アルレッキーノも登場)の冒頭のようだ。
    - そしてラッパに続いて皇帝の部下(ラウドスピーカー?)が「ハロー!ハロー!」と呼びかける。その後も何度か「ハロー!ハロー!」は出てくる。ドイツ語のハローは英語のハローと近いので作品の中にちゃんと「わかる言葉」があるという安心感を感じよう!

  • 死を救済だと思う人は、この作品を「死を称えるもの」「死を求めて作曲したもの」と捉えるかもしれない。
    え?わたしのこと?ははは。
    - でも、ウルマンとキエンがこの作品で求めたのは死の美化ではなく「嫌な独裁者(つまりヒトラー)に対して死神が協力を拒否すればいいのにね」「そして死神の活動再開の条件として独裁者に死んでもらえるといいのにね」という皮肉であろう。
    - だから、結局のところそういう皮肉が幹部の勘に触って上演ができなかったのかもしれない。でも、皆さんがこの作品を鑑賞するなら、作者2人のその後の運命を想って涙して悲しんで鑑賞するより、死をも覚悟して2人が必死の想いで作品に込めた素敵な皮肉(=笑い)を楽しんであげるのが良いとわたしは思う。

  • わたし個人の意見だが、国家規模で団結して全員で同じ方向に向かって進むのは危険である。
    - 困っている人がいたら助けよう。
    - そうでないときはお互いを尊重しながら個人の幸せを目指してバラバラに生きていこう。
    - 繋がりを愛する一般の人々からは嫌われるだろうけど、それがわたしの理想郷。

 

 

 

♦関連情報♦

ヘルベルト・シュフ Herbert Schuch のウルマン&ベートーヴェンCD

(↓クリックしてアマゾンでアルバムをチェック)

物理的なCDは高値が付けられているのでデジタルダウンロードをどうぞ。ウルマンのピアノ協奏曲と一緒に録音されたのはベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。

わたしは実のところこのベートーヴェンの演奏が非常にツボにはまって何度も聴いた。もう少しで楽譜を買ってしまうところだったが、買ったところで自分には弾けないだろうからやめておいた。

ウルマンのピアノ協奏曲に関しては、このCDとは別にヘルベルト・シュフがどこかヨーロッパのオーケストラと協演したときの演奏をオンデマンドで聴いたことがある。わたしの記憶が正しければ、アンコールとして彼はジェフスキーの「不屈の民」の一部を10分近く演奏した。20分の協奏曲なのにアンコールに10分もかけるとは!?彼にとってはウルマンとジェフスキー「不屈の民」は対となっているのだろう。

 

アニカ・トロイトラー Annika Treutler のウルマンCD

(↓クリックしてアマゾンでアルバムをチェック)

ドイツ語の勉強&音楽情報収集で聴いている北ドイツ放送 (NDR) のラジオインタビューで知ったアルバムである。ウルマンの協奏曲の他に、ピアノ・ソナタも入っている。ユダヤ民謡的なメロディーが使われているので個人的にはすごく好きな雰囲気。

ちなみに協奏曲は収容所より前に作曲されたが、ピアノ・ソナタは収容所で作曲されたもの。アニカ・トロイトラーはピアノ・ソナタにポジティブな要素を感じていて、ウルマンは希望を捨てていなかったと思うとインタビューで語っていた。確かに、潔く締め括るフィナーレなどにはポジティブなパワーを感じる。

こちらはアニカ・トロイトラーのウルマンProjectの紹介


The Viktor Ullmann Project

 

ギデオン・クライン Gideon Klein 作曲のララバイ(ユダヤ民謡の編曲)

クラインもウルマンたちと同時にテレジン収容所にいた作曲家の1人で、同じくアウシュヴィッツに送られて亡くなった。

数年前にルートヴィヒ・チェンバー・プレイヤーズの東京でのコンサートで知った作曲家。そのコンサートではクライン作曲の別の曲が演奏されたのだが、作曲家について調べているうちに、この美しい曲を知った。作曲地はウルマンのオペラと同じくテレジン収容所。


Ukolébavka

 

ウルマンのオペラの皮肉は、チェコスロヴァキアの作家カレル・チャペック Karel Čapek を思い出させる

偉大なる作家チャペックの情報を検索しようとしたのに紅茶専門店のサイトが出てくるとは・・・いつもながらGoogle検索のレベルの低さにガッカリ

チャペックは前述の通り、ユダヤ人ではないが、ヒトラーとナチズムを強く非難した人だった。でも、目を付けられて捕まる前に病死した。彼の兄(画家のヨゼフ・チャペック)は収容所に送られて亡くなった。

オペラの鑑賞メモで言及した戯曲『ロボット』をご紹介する。そもそも「ロボット」という言葉を作ったのはチャペックだ。わたしが図書館で借りた本は高額な中古しかないようだ。複数の作品が入っていて面白かったのに。代わりに文庫本へのリンクを貼っておく。

コロナ禍でカミュの小説『ペスト』がよく読まれたらしいが、カレル・チャペックの小説『白い病』も同じく感染症パンデミックを扱った作品だから、こちらも読んでもらいたいなぁ・・・

わたしが読んだ本では『白疫病』という訳だった。

チャペックは超超超平和主義者で、そして軍事国家や独裁者を徹底的に批判していたことがこの作品からも読み取れる。

もう1つ、クラシック音楽好きのわたしたち向けのチャペックの皮肉文学がある。

実はこれが1番オススメかもしれない。

最後のオペラの上演の場面は「作曲家」をかわいそうと思うのだが、全体的に見ればシニカルに笑いたくなる場面が何度も出てくる。

 

ヴィクトル・ウルマンから話題が飛んでしまった。ウルマンのオペラ『アトランティスの皇帝』は日本ではあまり知られていないが、ヨーロッパではそこそこ上演されているようだ。関連動画はたくさんあるしCDも出ている。ご自身で調べてみては?以下のキーワードをどうぞ。

Viktor Ullmann

The Emperor of Atlantis

Der Kaiser von Atlantis

 

ペトル・キエンが台本を書いたこのオペラも良いのだけど、カレル・チャペックの戯曲をウルマンがオペラ化なんてことがあれば良かったのになぁ・・・と勝手に思う。

もし彼らがもっと長く生きていたら・・・

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