ヴァーグナー作曲 楽劇「トリスタンとイゾルデ」で学ぶドイツ語講座

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ドイツ語学習者の皆さんへ!

もし、ここに挙げられたドイツ語の単語やフレーズにビビビと来たら、アナタはドイツ語オペラの世界に向いているかもしれませんよ。こわくないから、こっちの世界においで!!

 

受講者の皆さんへ!

この講座を担当するスズキ先生です。

こわくないですよ。ニッコリ!よろしくね。

この講座は真面目にコツコツ学習する講座ではありません。クラシック音楽作品に出てくるドイツ語の単語やフレーズを、スズキが適当に選んで適当にコメントするだけです。(え?そんなの「講座」ではない?)

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今回はヴァーグナー作曲の楽劇「トリスタンとイゾルデ」を取り上げます。リブレット(台本)もヴァーグナーが執筆しました。

音楽好きのスズキは、ストーリーの解説記事も書きました。

  先に読んでおいてね。

www.music-szk.com 

 

記事内のカタカナの発音は参考程度にして、正確な発音は他のサイトで確認しましょう。

Google翻訳にも音声ボタンがあります。スピーカーのマークをクリック。

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第1幕

アイルランドからコーンウォールに向かう船の中、トリスタンの忠実な家臣クルヴェナールが、英雄トリスタンを称えて、アイルランドをバカにする歌を披露した。そこから一部抜粋してみよう。

アイルランドの男モロルトは姫イゾルデの婚約者だった。年貢の取り立てにコーンウォール(イングランド)に行ったら、トリスタンに殺されて、首だけアイルランドに送り返された。

歌は、少し離れたところにいるイゾルデにも聴こえた。イゾルデ様のお怒りは爆発寸前・・・

 

「モロルトの歌」の最後の部分

Sein Haupt doch hängt
im Irenland,
als Zins gezahlt
von Engeland:
Hei! Unser Held Tristan,
wie der Zins zahlen kann!

 

では少しずつ見ていこう。

 

Sein Haupt doch hängt
im Irenland,

ザイン ハウプト ドフ ヘンクト

イム イーレンラント

「彼の頭は何とアイルランドでさらし首にされた」

頭はKopfという単語を使うことが多いのだが、この作品ではHauptとなっている。Hauptは「メイン」という意味も持つ。ドイツ語圏の「中央駅」は Hauptbahnhofという。旅好きならご存じのはず。

hängen は動詞「吊るす」で、英語の動詞 hang と同じ。

doch は、ここでは、おそらく「予想に反してこんなことになった」というニュアンスを持つのでは?

もう一度、このドイツ語の二行を読んでみよう。イメージが沸くかな?

「彼の頭」つまり「モロルトの首」は「さらし首」にされたということを歌っている。おお、コワイ。

 

als Zins gezahlt
von Engeland:

アルツ ツィンズ ゲツァールト

フォン エンゲーラント

「イングランドからの貢物として支払われた」

Zinsは金利 interest という意味を持つ。でも、ここでは「税金」みたいな意味で使われている。ただし一般的に税金はSteuerという。

動詞 Zahlen も旅行者にとって身近な単語だ。意味は「支払う」。ここでは「払われた」(受動態)なので ge---t となっている。

この Engeland エンゲーラント とさきほどの Irenland イーレンラント は、通常は England エングラント と Irland イルラント となる。ここで通常とは少し違う単語になっているのは、メロディーに合うように変形させたからということだろうか?それとも古い呼び名?

 

Hei! Unser Held Tristan,
wie der Zins zahlen kann! 

ハイ!ウンザー ヘルト トリスタン

ヴィー デア ツィンズ ツァーレン カン!

「おお!我らが英雄トリスタン!なんと見事に年貢を納めることができた!」

この最初のフレーズは本作品内で数回出てくる。練習しておこう。「ウンザ ヘル トリスタン」と発音すれば音楽にぴったりはまるはず。

Heldは「英雄」、英語ではヒーローhero。ちなみにテノール歌手で英雄的な役柄に向いた性質の声をHeldentenor ヘルデンテノールと言う。

wie は英語の how と同じ。感嘆詞として訳すか、「どのように」という意味を意識して訳すかによって、ちょっと訳が違ってくるのだろう。

この歌を、トリスタンの家臣クルヴェナールに続き、船乗りたちも繰り返したのだった。

さて、怒りにメラメラ燃えるイゾルデさん・・・

仕返しに「タントリスの歌」を歌った。

(ただし部屋には侍女ブランゲーネしかいない。アイツらには伝わっていない。)

 

あのとき、モロルトとの決闘で傷を受けたトリスタンは、こっそりアイルランドに渡ってイゾルデに治療してもらったのだった。

では、イゾルデさんが歌う「タントリスの歌」から単語やフレーズを抜き取ってみよう。

Kahn カーン 「小舟」

トリスタンが乗っていたカーンは klein und arm (小さくてみすぼらしい)小舟だったそうだ。

Isoldes Kunst イゾルデズ クンスト「イゾルデの術」

イゾルデには不思議な力がある。傷などを治してしまう力。医術?魔術?Kunstは「芸術」を意味する単語でもある。英語のartと同じ。

Der »Tantris« デア タントリス 「その "タントリス" とかいう・・・」 

タントリスはトリスタンの偽名。カッコ悪いぞトリスタン。わざわざ偽名を使って殺した相手の許嫁に助けてもらおうなんて。

Splitter シュプリッター「かけら、破片」 

イゾルデが「タントリス」がトリスタンであることに気付いたきっかけは、こうだ。

殺されたモロルトの頭に残っていた剣刃の破片 Splitterが、トリスタンの剣の欠けた部分と一致したから。おおコワイ・・・

婚約者の仇を取ろう。復讐のためにイゾルデは剣を握ったのだが、衰弱した哀れな男トリスタンのまなざしに負けてしまったのだった。

nicht auf das Schwert,
nicht auf die Hand,
er sah mir in die Augen

ニヒト アウフ ダス シュヴェアト

ニヒトアウフ ディー ハント

エア ザー ミア イン ディー アオゲン

トリスタンは、イゾルデが握る剣 Schwertではなく、剣を握る手 Handでもなく、じっと瞳 Augen を見つめて、無言で訴えたのだった。

 

トリスタンとイゾルデは、運命的な出会いを果たしたのだった。 口には出さなかったけど、運命の相手だと悟ったのだった。

それなのに・・・

あのときに復讐しておけば良かった。

助けてやったのに、運命の人なのに、なんでアタシがこんな仕打ちを受けなければいけないの!? あんなに無様だったのに、まるで英雄のように立派な船に乗って取り巻きたちに慕われて現れるなんて!とっても若いアタシを年老いた(とはいっても30代の)マルケ王の妃にするなんて!

イゾルデさんは怒っております。

 

ungeminnt ウンゲミント 「愛されない」

王と結婚すれば王の甥トリスタンも常に傍にいるだろう。傍にいるのに ungeminnt「愛されない」そんな状況に耐えられないとイゾルデは嘆く。

もっと一般的なドイツ語で言うなら ungeliebtだろう。

では、ungeminntは?

まず動詞を抜き出そう。

動詞はminnen で、古いドイツ語で「愛する」という意味。ドイツ関係に詳しい人ならピンとくるはず。

そう、恋愛の歌を歌う中世ドイツの吟遊詩人のことをミンネゼンガー Minnesängerと言う。

minnen (愛する)

→ 受動態 geminnt (愛される)

→ un+geminnt (愛されない)

この古い言葉は、この後も何度か出てくる。第2幕でイゾルデは「愛の神」のことを Frau Minne  フラウ ミンネ(愛の女)と呼んでいる。死の薬を愛の薬と取り換えたのは侍女ブランゲーネではなく、「愛の神」の仕業だという言うのがイゾルデの主張。

 

Trank トランク 「薬」

「薬」を意味する語だが、一般的に使われるのはMedizin メディツィン だろう。Trankは、なんとなくその響きからは液体の薬をイメージする。Trankには妖術やら魔術やらあやしげな力が加わっているような気がする。Trankは英語でpotion。

イゾルデの母親はお嫁に行くイゾルデに役に立つおクスリを持たせてくれた。嫁ぎ先に到着する直前に、ついにそれを飲む時が来たとイゾルデは思った。

トリスタンとTodestrank トーデストランクを飲もう。Todtrank =「死の薬」

会話の中ではその死の薬をズーネトランク「償いの薬」Sühnetrankと言っている。

ところが、イゾルデの侍女が死の薬をリーベストランク「愛の薬」Liebestrankと取り換えてしまった!

 

 

第2幕

【重要】愛の夜の会話を解読せよ!!

 トリスタンとイゾルデの愛の語らいは、はっきり言って意味不明だ。

  • 二人のうち、どちらのセリフか、分かりにくい(どっちが言ってもいい?)
  • まるで麻薬か何かの力による陶酔感あるいは高揚感なのだろうか? そんな経験ないからわたしに分かるはずない(笑)

愛する二人の会話など、わたしたちには関係ない?放置せよ?!

そう言いたいところだが、この愛の夜の場面は30分近く続く。

何も分からないまま鑑賞すると退屈で仕方ない。少しだけ頑張って理解してあげよう!

 

Tag ターク 「昼」「日」

英語の day と同じ。二人はとにかく「昼」を悪者にする。

「アイルランドにわたしを迎えに来て、わたしをだましたのは、"昼"のせいでしょ?"昼"にそそのかされたのね?」と、イゾルデはトリスタンに迫る。Der Tag! Der Tag! デア ターク!「そうでーす!昼です!昼!」とトリスタンは認める。

Der böse Tag デア ベーゼ ターク「悪い昼」

O eitler Tagesknecht! オー アイトラー ターゲスクネヒト「おー!うぬぼれの昼の卑しさ!」( knecht は部下・奴隷などを意味する)

「昼」に対して、まったく言いたい放題の二人だった。

Heil dem Tranke! ハイル デム トランケ!「その薬にバンザイ」

トリスタンが、あの愛の薬を称えながら興奮している。「あのSaft ザフト(飲み物)!」「Zaubers hehrer Kraft ツァオバーズ ヘーラー クラフト (魔法の高貴な力)!」と叫んでいる。大嫌いな昼を追い払って、夜をもたらしてくれたドリンクに感謝!

 

それから二人で以下の歌を歌う。

O sink hernieder,
Nacht der Liebe,

オー ジンク ヘアニーダー

ナフト デア リーベ

「ああ、下の方へ沈み込め、愛の夜」


gib Vergessen,
dass ich lebe;

ギプ フェアゲッセン

ダス イヒ レーベ

「わたしが生きているということを忘れさせてくれ」

gib は動詞gebenで英語のgiveと同じ。ここでは Vergessen の V が大文字だから名詞「忘却」。直訳すれば「忘却をください」。どんな忘却が欲しいのか? dass 以下に注目。つまり、「生きている」ということを忘れたい。

lebe は動詞 leben レーベン(生きる)なので、lieben リーベン(愛する)と見間違えないように!

nimm mich auf

ニム ミヒ アオフ

「わたしを天に召してください」

 nimmは動詞 nehmen で、英語のtakeと同じ。「わたしを抱き上げてください」とか「わたしをあなたのところで受け入れてください」みたいな訳でも良いのだろうけど、ヴァーグナー作品的には、これは死にたくても死にきれない運命を負った人が救済(死)を求めるときのセリフだろう。さまよい続けるオランダ人もnimm mich auf と叫んでいたはず。

 

トリスタンとイゾルデは、そのあと、Herz an Herz (心臓と心臓がくっついている?)とかMund an Mund (口と口がくっついている?)とか、eines Atems (1つの息)とか、そんなことを歌っている。(ノーコメント)

そして、第1回目の中断が入る。侍女ブランゲーネが「そろそろ夜明けだから起きて注意して」と歌う。

 

und ウント 「~と」

イゾルデはTristan und Isolde (トリスタンとイゾルデ)の「と」の部分に神秘的な愛の繋がりを感じると言う。気持ち良さそうに、うっとりしながら「ウント」とささやくイゾルデ。

さあ、あなたも「ウント」とささやいてみよう!

 

ウゥ ゥ ン ト・・・

 

ダメです。気持ちがこもっていない。はい、もう一度。

 

二人は声を合わせて、このように歌った。 

So stürben wir,
um ungetrennt,
ewig einig
ohne End',
ohn' Erwachen,
ohn' Erbangen,

ゾー ストゥルベン ヴィア

ウム ウンゲトレント

エーヴィヒ アイニヒ

オーネ エント

オーン エアヴァクセン

オーン エアバンゲン

「こうして、わたしたちは死んだのだろう。離れることなく、永遠に一つになって、終わりがない、目覚めることもない、恐れることもない・・・」

ungetrennt という単語を見てみよう。ungemminnt を思い出してください。

動詞はtrennenで、意味は「離れる」。

受動態はgetrennt

そして否定するためのunを頭に付けると、ungetrennt 。「離されることがない」となる。

ohne は「~がない」で、英語のwithoutと同じ。つまり ohne end は「終わりがない」という意味。

ohne Milch (ミルクなし)とかohne Zucker(砂糖なし)などのようにコーヒーを注文するときも使う単語。(スズキ個人的には大事な単語だ!)

 

「このようにして、わたしたちは死んだのだろう・・・・」

ああ、「死にたい願望」をこうやってはっきり表現することが許されるクラシック音楽の世界が、わたしは好きだ。「生きるって素晴らしい」という幼稚でバカバカしいプロパガンダなど何の役にも立たない。

 

侍女が2度目の注意呼びかけを行う。相変わらずトリスタンとイゾルデは二人の世界にこもる。

Ew'ge Nacht (永遠の夜)Süße Nacht (あまい夜)Liebesnacht(愛の夜)と、力強い歌声で「夜」を称えまくり!(「昼」に対する非難とはまったく逆の態度!) 

トリスタンが「トリスタンはおまえでオレがイゾルデだ」と言い

イゾルデは「イゾルデはおまえでわたしはトリスタン」と言う。

なんだ!?それは?! 

 

どう?愛の夜を少しは攻略できたかな?

 

der treusten aller Treuen デア トロイステン アラー トロイエン 「すべての忠実な人間の中で最も忠実な」 

マルケ王とトリスタンの友人メロートが乗り込んできて、愛の時間は終わってしまった。

マルケ王は der treusten aller Treuen(すべての忠実な人間の中で最も忠実な)な人間であるトリスタンに裏切られたことがショックで苦しそうに苦悩を語る。 der treusten は比較の最上級。

 

 

第3幕

Ärztin エルツティン 女医

メロートから受けた傷で瀕死のトリスタン。忠実な家臣クルヴェナールは、トリスタンの回復のために「女医」を呼んでいた。「女医」の船はまだ到着しない。

「女医」は、以前トリスタンの傷を治したイゾルデのこと。

男性の医者はArzt アルツト で、女性の医者はÄrztin

なんとなく発音が「アーティスト」に似ているが、アーティスト(芸術家)は Kunstler (男)クンストラー Künstlerin (女)キュンストラリン なので間違えないように!

クルヴェナールは誇らしげだった。トリスタンを背負って、船に乗って、トリスタンの故郷に戻ってきた。平和ですばらしい故郷。

トリスタンは逆に落ち込んでしまった。死ぬつもりだったのに、生かされてしまった。(部下に余計なことされた。)せっかく「夜」(死)に向かっていたのに「昼」(生)に連れ戻された。

二人の思惑は異なるのだが、クルヴェナールがイゾルデを呼んだことはトリスタンに感動をもたらした。

Isolde kommt!
Isolde naht!

イゾルデ コムト!

イゾルデ ナート!

「イゾルデが来る!イゾルデが近づいてくる!」

トリスタンが歓喜の声を上げる。naht は動詞 nahen ナーエンで英語のnearと同じ。(英語のnearは形容詞、副詞、前置詞などで使うことが多いが一応動詞でもある!例:締切が近づいている→The deadline is nearing)

nahtのみをGoogle翻訳(独→英)してみると、動詞「縫う」nähen ネーエンに関連する語が表示されて、やや戸惑った。動詞「縫う」nähenの名詞形  Naht が「縫い目」という意味であることを知った。

どんな状況でも決して自分を裏切らないクルヴェナールに、トリスタンは感謝した。(主人に忠誠すぎるクルヴェナールは、わたしから見るとちょっと恐い。目上の人間が間違ったことをしたときは No と言おうよ・・・)

Mein Schild, mein Schirm
in Kampf und Streit,
zu Lust und Leid
mir stets bereit

マイン シールト マイン シルム

イン カンプフ ウント シュトライト

ツゥー ルスト ウント ライト

ミア シュテーツ ベライト

「(クルヴェナール、おまえは)戦や争いにおいて、わたしの盾、わたしを守る覆いとなり、楽しいときも辛いときも常にわたしのために対応してくれた」

シルトとシルム、ルストとライト、音の似た単語を並べているところに注目。さらに、2~4行目の最後の単語も韻を踏んでいる → シュトライト、ライト、ベライト。

Lust は「楽しいこと」という意味。

「~は楽しい」というときは lustig ルスティヒと言う。似たような単語で komisch コミシュ という単語がある。こちらも意味は「楽しい」なのだが、コミシュは「アホくさい」などネガティブな意味も含むので、気を付けよう。

Leid も初級ドイツ語でよく見かける単語。

「ごめんなさい」はTut mir leid トゥトゥ ミア ライトと言う。

また、「コンサートに行くの?」に対して「いいえ、残念だけど」と言うときは Leider nicht ライダー ニヒトとなる。

 

そして、すぐに愛の苦しみを思い出してしまったトリスタン・・・

Im Sterben mich zu sehnen,
vor Sehnsucht nicht zu sterben!

イム シュタルベン ミヒ ツゥ ゼーネン

フォア ゼーンズフト ニヒト ツゥ シュタルベン!

「死を迎える中で激しく(イゾルデを)求めているのだ。激しい切望のせいで死ぬのではなく。」

「イゾルデに会いたくて仕方ない」とトリスタンは訴える。

SehnenSehnsuchtは一般的には「あこがれ」と訳す。今回は「激しく求める」と、やや意訳してみた。

数年前にも某作品に関してSehnsucht という単語と出くわして、どうも日本語の「あこがれ」という子供っぽい単語と Sehnsucht という強い想いを意味する単語が一致しないと思った。

本作におけるSehnenSehnensuchtの定番の訳は「あこがれ」や「渇望」「切望」なのでは?それらを訳者の好みや文脈に応じて使っているのだろう。

vor は「~の前」という意味だが、ここでは「死の原因」を述べるために使われている vor だと思う。「会いたい想いが強すぎて死ぬのではない」ということを訴えている。とにかく、もう死にそうなんだ。死にかけながら、激しく求めているのだと、言っている。

 

さらに錯乱したトリスタンは、第2幕で褒め称えていた「あの薬」に対して呪いの言葉を吐いたり、あれを作ったのは自分だ、自分も呪われろと激したり・・・

ついにイゾルデとの再会が近づいた。トリスタンはバリバリと包帯を剥がして流血状態で立ち上がった。 

Heia, mein Blut!
Lustig nun fliesse!

ハイア、マイン ブルット!

ルスティヒ ヌン フリーセ!

えい!オレの血よ! 今こそ勢いよく流れろ! 

上でも少し触れた lustig という単語なのだが、ここでは「楽しい」というよりは、2つ目の意味「元気に」「生き生きと」を充てるのが良いだろう。

それにしても、強烈過ぎる。この直後にトリスタンは息絶える。この流血シーンの音楽の勢いが凄まじい。演奏しているオーケストラが死神に見えてくる(?)

トリスタンは完璧な英雄ではない。彼には弱いところがある。

  • 偽名でイゾルデに助けを求める。
  • 英雄気取りでイゾルデを迎えにアイルランドに来たのに船の中ではイゾルデに近づかないようにする。
  • 夜の密会がバレたときはイゾルデを置いて一人で先に死のうとする。
  • ベッドで大人しく待っているようにクルヴェナールに言われたのに、無理して立ち上がって包帯外して最期の力を使い果たす。

そんなダメな部分に、わたしたちはついつい共感してしまうのだろうか。

 

マルケ王が追いかけて来たのだが、到着したときはもう手遅れだった。死者の数ばかり増えていく。

 

最後に、イゾルデが歌う有名な「愛の死」の冒頭部分を取り上げる。

Mild und leise
wie er lächelt,
wie das Auge
hold er öffnet

ミルト ウント ライゼ

ヴィー エア レッヒェルト

ヴィー ダス アオゲ

ホルト エア エフネット

「彼がやさしく静かに微笑んで、美しく瞳をあけるのが・・・」(「みなさんには見えないの?」と続く)

すでにイゾルデは周囲の様子を認識できていない。そして、周囲の人々には見えないものが、彼女には見えているらしい。歌い終わったイゾルデはトリスタンの亡骸の上に倒れて絶命。

さあ、出だしだけでも歌ってみよう。このメロディーは既に第2幕から何度か流れているから、もう耳に馴染んでいるはず。まだ聴いていない人も3回聴けば冒頭部分を歌えるようになるはず。


Tristan und Isolde: "Mild und leise" (Nina Stemme)

 

詩の続きはご自身で解読してみよう。

 

ちなみに「愛の死」はヴァーグナーの友人で作曲家のフランツ・リストがピアノ曲として編曲している。

ピアノ弾きにとっては、楽劇「トリスタンとイゾルデ」よりピアノ曲「愛の死」の方が身近なのだろう。「愛の死」をピアノで演奏するなら、原作である楽劇についても十分勉強するべきだと、わたしは思う。

でも現実としては、原作を知らずに(あるいはウィキペディアを一読しただけで)リスト編曲のピアノ曲を弾いている人も多いのだろうね。残念だね。そういう人たちは「大事なことはすべて楽譜に書かれている」という考えの持ち主なのだろう。(皮肉) 

 

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おまけ(動画など)

 

フランクフルト歌劇場

関係者それぞれのトーク。ハイライト場面の歌と映像も沢山入っている。


Richard Wagner: TRISTAN UND ISOLDE, Oper Frankfurt

 

ベルリン国立歌劇場 トレイラー


TRISTAN UND ISOLDE | Staatsoper Unter den Linden

 

メトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)トレイラー


Tristan und Isolde: Trailer

 

1993年 ベルリン・ドイツ・オペラ 東京公演 (全編)

第1幕


Wagner: Tristan and Isolde, Act 1 (Deutsche Oper Berlin in Tokyo, 1993)

第2幕


Wagner: Tristan and Isolde, Act 2 (Deutsche Oper Berlin in Tokyo, 1993)

第3幕


Wagner: Tristan and Isolde, Act 3 (Deutsche Oper Berlin in Tokyo, 1993)

  

2004年 ルツェルン音楽祭 第2幕


Richard Wagner - Tristan and Isolde (2nd act), concert performance (Lucerne Festival 2004)

 

 

ドイツ語ではなく英語だが、ロンドンのロイヤルオペラハウスの指揮者アントニオ・パッパーノがピアノ実演付きで「トリスタン和音(コード)」について語っているので、気になる方は下の動画を再生しよう。

「解決」がない音楽が続く「トリスタンとイゾルデ」。このコードそのものというより、コードをどのような流れの中で使うかということが効果を生むんだなぁ。


Antonio Pappano discusses Wagner's 'Tristan' chord (The Royal Opera)

 

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初鑑賞に向けた勉強の成果を2回に分けて書かせていただいたのだけど、実は書きたいことが書き切れていないのだ・・・ 

さすがにもう鬱陶しいだろうから、今回の予習記事はこれで終わりにしておく。

これだけ書いてもまだアタマに蓄積されたモノを放出できていない。

そして、これほど頑張って勉強しているのに、たぶんまだ作品の意味や魅力を半分も理解できていない。

何しろ演奏に4時間近くもかかる作品である上に、ヴァーグナーが徹底的にいろんなモノを仕込んでいるので、わたしのようなオバカにとっては難解な世界なのだ。

永遠に勉強を続けるしかないのだ。とほほ。

とりあえず、初鑑賞を楽しむための準備としてはこれで十分だろう。

 

ご存じの通り、日本の状況が変わってしまったので、場合によっては予定通りの公演開催が不可能となることも想定しておかなければ・・・(涙)

 

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いかがでしたか?

疲れてしまいました?

ドイツ語の勉強をもっとやりたい人はこちらもどうぞ。

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