ハムレット2

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『ハムレット』では、個性豊かな登場人物が、お客さんの前で、バラエティ豊かな死のシーンを繰り広げる。どのような場面なのか、気になって仕方ない皆さまのため、死亡調査レポートを作成した。ご覧いただければと思う。

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では、1人ずつ死の瞬間とそこに至るまで、その後などについて考察しよう。

 

先代デンマーク王(ハムレットの父) 

『ハムレット』の物語が始まる前に既に死亡。死んだ先代王は亡霊としてのみ物語に登場する。

庭でお昼寝中に耳に毒を注がれたという死因は、我々に恐怖感を与えるが、同時に、どこか少し間抜けな印象も与える。とにかく、とてもユニークなのでスズキは絵を描いてみた。

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毒殺の犯人は、王位と王妃を狙っていた弟クローディアス。

この毒殺の場面は、王宮にやってきた劇団が、みんなの前で再現する。そんな場面をこっそり仕組んだのはハムレット。それを観て震えあがったのは、言うまでもないが犯行の張本人であるクローディアス。

 

ポローニアス(新王の忠臣) 

延々と助言や報告を続ける面倒くさい、お喋りオジサンのポローニアス。彼は、王妃の許可を得て、王妃の部屋の壁掛けの裏に隠れて、王妃とハムレットのやりとりを見守っていたのだが、ハムレットに刺された。なお、ポローニアスは隠れたまま刺されたので、ハムレットはポローニアスの死体を見るまで、それが誰だか分からなかった。

この事件を知った王クローディアスは、「刺されたのは、自分だったかもしれない」と恐れる。ハムレットを呼び出して、事件について問い詰めるのだが、そのやり取りが面白い。気に入った。読者の皆さんも真似して演じてみよう。

王  おい、ハムレット!
   ポローニアスはどこだ?
   Now, Hamlet,
           where’s Polonius?

ハム 食事中
   At supper.

(スズキのオススメ:ぜひ、とぼけた感じで。相手をバカにした感じで。「え?彼に会いたいの?残念だけど食事中だよん」という感じで。ちょっと残念そうに。)

王  食事だと!?
   どこで?
           At supper! where?

ハム 食べているのではなく、
           食べられているところです
           Not where he eats,
           but where he is eaten

(スズキのオススメ:eatenの下線部分を強調するとおもしろおかしく聞こえる。つまり土の中でバクテリアに喰われている最中ね。)

・・・中略・・・

王  ポローニアスはどこだ??
           Where is Polonius?

(スズキのオススメ:2度目のセリフなのでもっと怒りを爆発させて言おう。)

ハム 天国にいる。家来を派遣して
   見に行ってもらえば?

           In heaven: send thither to see

(スズキの一言:つまり家来に死んでもらえということ?)

ハム もし見つからないなら、
   自分自身で
もう1つの方
  (つまり地獄)に
行って
   探せば?

          if your messenger
    find him not there,

          seek him i’ the other place
    yourself.

(スズキの一言:つまり、アナタは死んだら地獄行き確定なのだから、死んでみたら?地獄でポローニアスを探したら?ということ)

 

ちなみにsupperサパー は夜の軽い食事のことで、1日のメインの食事dinnerは、当時はお昼にいただくものだった。つまり、この場面は夜ということだ。

ぷぷぷ。。。。。 このシーンは、淡々と流すことも可能なのだろうけど、個人的には、サラリと流さず、ぜひ笑いを取れる滑稽な演技を見せて欲しい。

eatenを強調するのは、ロンドンのグローブ座の動画で観たもの。無料公開期間は終了したが、有料でオンライン鑑賞が可能。

www.shakespearesglobe.com

 

シェイクスピア・グローブ座(『ハムレット』予告編)


Trailer | Hamlet (2018) | Shakespeare's Globe

サムネイルの黒い服を着た女性がハムレット役。そうなのだ。男性キャラを男性が演じるとは限らない。芝居の世界はオペラより、映画やテレビより、柔軟に配役できる。わたしが年初にロンドンで観劇した『リチャード三世』も、主役リチャードを演じたのは女性だった。そんなことが可能だとは、実際に舞台を観るまで知らなかった。

オペラでは、メゾソプラノ歌手が少年役(「ズボン役」と言う)を歌ったり、カストラート歌手向けの人物(男女両方あり)をカウンテーテノール歌手や女性歌手が歌う場合を除き、男女逆の配役で上演するということは、ほとんど無理だろう。それぞれの声域に合わせて作曲された音楽を変えることは望ましくない。

さらには、オペラではソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスのように、それぞれの声域により役が決まるので、配役の柔軟性は芝居より低い。

芝居は、オペラより自由に配役できるのだ。

 

でも、何故シェイクスピア作品の芝居では、男性である人物を女性役者が演じるという試みが行われているのか。

何でもかんでも珍しいことをやれば良いという訳ではない。

調べたことや考えたことから、わたしなりの理解を述べたい。シェイクスピアの時代、舞台役者はすべて男性だった。女性キャラは少年が演じていた。そのため、シェイクスピア作品に登場する魅力ある人物というのは、圧倒的に男性が多い。ハムレットも、リチャード三世も、リア王、マクベス、ジュリアス・シーザーなど。どこかで読んだけど、クレオパトラやジュリエットのような主役級の魅力ある女性キャラは、演技の上手な少年役者がいたときに、その少年に演じてもらうことを想定して書かれたという。たまたま上手い少年がいたから可能だったらしい。そのような例外を除くと、基本的には、物語の中心となるメインの人物は大人の男性役者が演じることを想定してストーリーが書かれていた。質の高い上演にするためにもそれが必要だった。客が入らないと劇場を運営していけないし。そんな事情だったから、シェイクスピア作品に登場する魅力ある人物は、男性が多い。

しかし、現代では女性も役者としてシェイクスピアの芝居に出ることができる。実力ある役者には、その能力に相応しい人物を演じて欲しいし、役者自身だってそう思っているはず。ハムレットのような、役者として演じ甲斐のある役を、男性だけの特権にするのは、どうだろう。わたしは役者でも何でもないが、もし自分が舞台役者だったら、シェイクスピア作品のどの人物を演じたいかと問われれば、王妃や母親や娘役より、ハムレットやリチャード三世を挙げるだろう。

 

リチャード三世も強烈で面白いキャラだったが、ハムレットも負けていない。登場した瞬間から苦悩に満ちた暗い顔。その後はずっと気が狂ったふり。かと思えば劇団役者たちの前で芝居のセリフを披露したり、新たにセリフを書き出して役者に与えたり。長い長い物語のラストには無事?殺された父の復讐を果たした。

そう、「長い」のだ、『ハムレット』は。全編オーディオブックなら4時間近い長さ。まるでヴァーグナー作曲の楽劇に匹敵する長さ。オペラと違って芝居には前奏や間奏は無い。最初から最後まで役者たちの対話や独白が続く。『ハムレット』の台本は4,000行だそうだ。読むのが長くて結構しんどいヴァーグナー作品の中で、最もテキストが長いのは『ニュルンベルクのマイスタージンガー』だが、その行数は3,098というから、『ハムレット』のボリュームの凄まじさはヴァーグナー以上ということだ。(行数はいずれもウィキペディアより)

一方、実際の上演では、オペラは基本的にすべてを演奏するが、シェイクスピアの芝居では一部カットされることも多い。すべて演じると4時間近い作品でも、芝居では演出により長さは3時間前後となることが多い。とはいっても、お芝居の鑑賞の前に事前学習する場合は、すべて学習しておくべきだろう。実際に上演を観るまで、どの場面がカットされているかは分からないのだから。

 

ハムレットは舞台役者が憧れる役の1つなのだろう。カナダのストラットフォードでリア王を演じた役者が、インタビュー動画でこう言っていた。リア王を演じたことは、自分の役者人生の中で最も重要な意味のある出来事2つのうちの1つだったと。「もう1つの重要な出来事」は、「ハムレットを演じたこと」だそうだ。その発言からも、ハムレットという役がいかに特別かということが分かるだろう。

それなら、その役を女性だって演じていいはずでしょう。グローブ座では、ハムレット役以外にもホレイショーなどいくつかの役が、オリジナルの人物設定とは違う性別の役者が演じていた。

グローブ座でハムレットを演じた女優ミシェル・テリーは、普段ほとんど芝居を観たことがないスズキでも気になる、いかにも実力派で個性的な雰囲気。2018年からグローブ座の芸術監督も務める。役者でありライターでもある。今年4月にグローブ座のYouTubeチャンネルで公開された『ハムレット』では、主役を演じながらディレクターとしても関わっていた。今年の始めにロンドンで観劇した『リチャード三世』でシェイクスピアに興味を持ったわたしを、見事に次の段階へ引っ張っていったのは、彼女の『ハムレット』だった。

笑わせるところをしっかり笑わせながら、なぜかシリアスなものを観たような気にさせる。いや、「なぜか・・・させる」という言い方は変かもしれない。だって、ストーリーは極めてシリアスなのだから。でも、シェイクスピアはそこに抜け目なく笑いの要素も染み込ませている。そして、シリアスな雰囲気も、笑いの場面も、牽引するのは主役ハムレット。ハムレット役の役割は非常に重い。セリフの長さだけでなく。

ミシェル・テリー氏が演じる狂人ハムレットは、ピエロのように大きくはみ出た赤い口紅を手でこすって、ぐちゃぐちゃの顔で踏ん張っていた。

 

老ポローニアスの話からだいぶ脱線してしまった。

次に行こう。次は、あの人たちか!ぷぷぷ(笑)

 

ローゼンクランツとギルデンスターン(ハムレットの友人) 

死亡時期は正確には分からないが、ポローニアスの後であることは確か。オフィーリアとどちらが先か分からないが、少なくとも「死ぬことが確定した」のはこの2人がオフィーリアより先だろう。

父の死(と母の急過ぎる再婚)で落ち込みまくっていたハムレットは、父の亡霊に復讐を果たせと命じられ、亡霊を若干疑いながらも、復讐のチャンスを狙うために気違いのふりをすることにした。王と王妃は、ハムレットの変貌ぶり(「トランスフォメーション」という単語を新王は使っていた。最近のビジネス界でもよく目にする単語だ。)の原因を探り、ハムレットに元気を取り戻してもらうため、ハムレットの旧友を2人を呼び出した。それがローゼンクランツとギルデンスターンだ。

 

かわいそうな2人は、どっちがローゼンクランツか、ギルデンスターンか、王宮の人々にあまり理解してもらえてないようだ。なぜなら、どっちがどっちでも良いから!その程度の存在なのだ!あら、まあ!かわいそうに。

ハムレットがポローニアスを殺し、次は自分かもしれないと恐怖を覚えた王は、ついにハムレットを外国へ追放する。遠いイングランドで、珍しいものでも観て、気分転換してもらおうというのが表向きの狙い。実は、同行するローゼンクランツとギルデンスターンに、デンマーク王である自分からイングランド王に宛てた親書をもたせてある。そこに書かれていたのは「ハムレットを即刻処刑せよ」だった。

イングランド行きの船の中で、同行の友2人から、こっそり親書を奪ったハムレットは、その内容を知り、親書を偽造する。そこに彼が書いたのは「この親書を持ってきた使者たちを処刑せよ」だった。その後、ハムレットは襲撃してきた海賊船に飛び移ったので、イングランドへは行かなかった。ローゼンクランツとギルデンスターンは、主が不在なのに、真面目にイングランドまで旅して、ハムレットが偽造した親書を王に渡したのだろう。親書がハムレットにより摺り替えられたことなど知らず、そもそも元の親書に何が書かれていたかも知らず、何が何だか分からない内に2人は処刑されて死亡。その場面は残念ながら舞台上で観ることはできない。物語には含まれていない。それでいいのだ。彼らはその程度の存在なのだ。ごめんよ。あら、まあ!かわいそうに。

なんという不幸な2人だろう。王国のどこかで平和に暮らしていたのに、たまたま王子ハムレットと同世代で、子供時代か少年時代に仲良くしていたというだけで、いきなり王室から呼び出されて、利用されて、わけわからないまま死んでしまったとは!(しかもその場面は舞台上では演じられない!)

 

心配するな。世の中には心優しい人がいるのだ。そんな残念な最期を遂げた2人のため、2人を主人公とする作品を書いた人がいた。書名は『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』という。

君たち2人が主役じゃないか!おめでとう!ローゼンスターンとギルデンクランツ!(←笑 こら!スズキ!)しかも映画?DVDもあるらしい!

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シェイクスピア作品の翻訳で気に入っている松岡和子氏による翻訳なので、読んでみようと思ったのだが、冴えない2人が主役なので、あまりに退屈過ぎて数ページで断念してしまった。ごめんよ、ローゼンスターンとギルデンクランツ

 

ところで、再びロンドンのグローブ座の『ハムレット』についてコメントするが、粋な取り組みが行われていた。

この冴えない2人のうちの1人、ローゼンクランツだったか、ギルデンスターンか、忘れてしまったし、どっちでも良いのだけど、とにかく2人のうちの1人を、手話で会話する役者が演じたのだった。

ローゼンクランツ(あるいはギルデンスターン?)と会話するときだけ、ハムレットなど他の役者たちも舞台上で、手話を使った。ローゼンクランツ(あるいはギルデンスターン?)が手話で発言しているときは、話し相手の役者(たとえばハムレット)が、それを読み取って声に出してお客さんに伝える。あたかも自分自身が確認しながら発しているという感じで自然である。ハムレットが発言するときは、手話をしながら声でも表現する。そうすることで、手話が分からないお客さんも内容を難なく理解できる。

『ハムレット』の稽古中のクリップ動画に手話役者も出ているので、よろしければ観てくださいね。


Globe Ensemble: In Rehearsal


Globe Ensemble: Interview with Nadia Nadarajah

 

あまりにも長くなってしまったので、「死亡調査レポート」詳細の続きは次のページで。

 

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上で紹介したロンドンのグローブ座のように、カナダのストラットフォード・フェスティバルも、無料特別公開終了後は有料オンデマンドで作品を提供している。

ヨーロッパに夢中だからカナダには全然興味なかったのだが、こうして作品を配信してくれたからこそ、フェスティバルの存在を知り、いつか行ってみたいと思うようになった。他にもシェイクスピアをメインで上演する劇場やフェスティバルは英語圏を中心に沢山存在するのだろうけど、まったく知らない。存在をアピールしないのか?それでいいのか?将来シェイクスピアおたくになる可能性のある人間が、ここに約1名いるので、積極的にアピールしていただきたい。

www.stratfordfestival.ca

 

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『ハムレット』映画館公開版予告編もどうぞ。全編は観ていないけど、衣装や音楽から察するに、場所をアフリカに設定しているようだ。こちらも面白そう。イギリス国内ならBBC iPlayerで鑑賞できるらしい。


Cinema Trailer | Hamlet | Royal Shakespeare Company

 

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